日本学術会議の「所見」に、推進側は「事実誤認」と猛反発
2018年11月27日
「ILC(アイ・エル・シー)」は誘致運動を進めている岩手県の県内ではよく知られた名称だが、一歩県外に出ると知名度はほとんどないと言えるだろう。電子と陽電子を加速して正面衝突させる直線型加速器の名称である。現在の計画では全長20キロ、北上山地の地下にトンネルを掘って設置し国際共同研究所にすると構想されている。谷村邦久・岩手県商工会議所連合会会長を先頭に東北経済界は「ILCを東北へ」と政治家にも積極的に働きかけている。
今年7月20日、文部科学省が日本学術会議にILCの「学術的意義」や「国民及び社会に対する意義」などについて審議を依頼。学術会議は家泰弘・日本学術振興会理事を委員長とする検討委員会を作って審議を進め、「所見」をほぼまとめたところである。総合所見はまだ空欄だが、本文のそこここに後ろ向きの表現がある。
たとえば、技術的・経済的波及効果については「限定的と考えられる」と書く。波及効果を事前に見積もることは難しく、推進側が過大に言いがちなのは事実だろう。ただ、「限定的」とする根拠も確かなものではない。
波及効果に関しては誰しもはっきり予言できないだろうが、「学術的意義」については学術会議としての判断が重みを持つ。ここの書きぶりは「研究課題が極めて重要なものの一つであることは認められるものの、素粒子物理学の他の研究課題に比して突出した優先性を有するかという点について、当該分野の研究者コミュニティにおいてさえコンセンサスが形成されている状況にない」である。
ILCの目的は、欧州合同原子核研究機関(CERN=セルン)で見つかったヒッグス粒子をたくさん作りだし(こういう実験装置は「ファクトリー」と呼ばれる。ノーベル賞を受けた小林・益川理論を検証するためB中間子を大量に作る装置は「Bファクトリー」と呼ばれた。ILCは「ヒッグスファクトリー」である)、「ヒッグス結合の精密測定」をするというものだ。その意義は、はっきり言って素粒子物理学の専門家以外にはチンプンカンプンである。だからこそ、さまざまな分野の専門家の集まりである学術会議に判断が求められたわけだ。
しかし、
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