1.5度未満を目指して地球温暖化防止の先頭に立とう
2018年12月07日
筆者が暮らす那覇の町の真ん中に土産物屋がひしめく国際通りがある。今年はまさにその名にふさわしく、国際通りはアジアから、そしてヨーロッパからの観光客で大にぎわいであった。彼らを引き付ける沖縄の魅力は、空手を含む文化もあるが、何といってもサンゴがきらめく青い海と白い砂浜であろう。世界の人々を誘うこの沖縄の魅力は、果たして今後も輝き続けるだろうか。いまそれが問われている。
11月22日、世界気象機関(WMO)は地球温暖化に最も大きな影響を及ぼす二酸化炭素(CO2)の大気中の濃度が2017年に405.5ppmとなり、過去最高を更新したと発表した。CO2濃度は産業革命前の1750年ごろと比べると46%増しとなっており、気温も既に1度高くなっている。2020年から始まる「パリ協定」は、長期的な気温上昇を2度未満に抑えるのが目標であるが、温暖化影響には不明な点が多いため、より安全な1.5度未満に向けて努力する目標も掲げている。
しかしその達成の見通しは明るくない。世界第2位の温室効果ガス排出国である米国(第1位は中国)のトランプ政権は「パリ協定」離脱の方針を打ち出し、わが日本も政府が先頭に立って前世紀の遺物とも言うべき石炭火力発電の輸出を続け世界のひんしゅくを買うなど、人類はすでに2度どころか3度上昇への道を歩んでいる。しかし、1.5度未満に抑えられなければ沖縄の未来はない。
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、沖縄が看過できない重要な報告を、10月8日、韓国の仁川で世界に向けてプレスリリースした。地球温暖化がこのまま進んで、産業革命前に比べ気温が2度上昇すると、世界の海のサンゴの99%が失われてしまうかもしれない、というのである。その報告は、各国が2030年までに思い切った温暖化対策を講じ、長期的な気温上昇を1.5度未満に抑えるならば、死滅するサンゴは70~90%にとどまるであろうとも述べている。つまり、10~30%は生き残る望みがあるというのだ。たった0.5度でこれだけ大きな違いがあるので、是が非でも1.5度未満に抑えようと世界に呼びかけているのである。
沖縄の観光産業は2001年の9.11で重要な教訓を得た。米軍基地を抱えている沖縄では、キナ臭いにおいがすると観光客がサッと引いていくという苦い教訓である。観光は平和産業であり、危険なところにわざわざ来る観光客はいない。沖縄が今以上の米軍基地の建設に反対する背景には、この9.11の苦い経験がある。従って沖縄には、自らの未来を切り開くためにアジアに平和を創る積極的な取り組みが求められるが、それと同時に沖縄観光の魅力の源泉であるサンゴを守るために、地球温暖化防止のキャンペーンの先頭に立つことが求められているのである。
実は10年前にもサンゴが危機に陥っているという重要な警告が沖縄の人々に対してあった。しかし、それを受けての沖縄の取り組みは、残念なことに十分なものではなかった。その意味では今回のIPCCの警告は、最後通告と受け止めるべきものであろう。
10年前の警告というのは、2008年9月10日の朝日新聞1面トップの記事「サンゴ7割消えた」である。「地球異変」という特集の中での報道であった。
日本最大のサンゴの海は沖縄の石垣島と西表島の間に広がる石西礁湖であるが、国立環境研究所と朝日新聞社が飛行機を使用して共同調査を実施したところ、2003年に比べ5年後の2008年には7割のサンゴが死滅していたというのである。かつては円形だったテーブルサンゴが崩れ落ちた無残な姿が記事のトップに掲載され、サンゴの窮状を読者に強く訴えている。記事の下部に示されているのは調査した時点での生きたサンゴの割合を図示したもので、2003年にはかなり見られた50~100%生存水域(図中緑で示された水域)が2008年には激減していることがわかる。
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