「1987、ある闘いの真実」と「タクシー運転手 約束は海を越えて」
2018年12月11日
ソウルの延世(ヨンセ)大学の正門前に、学生を弔う1枚のプレートがある。1987年におきた民主化運動の犠牲者だ。11月最後の週、大学を訪問する機会があり、プレートを確かめることができた。
1980年5月、多数の死傷者を出した光州事件。その真実を世界に知らせたドイツ人記者と彼を光州に連れて行ったタクシー運転手を中心に描いたこの映画は、史実に基づいて歴史的な意義を語る映画としても、またエンタテインメントとしても大成功したヒット作である。
ストーリーは、シングルファーザーのタクシー運転手(ソン・ガンホ)が、娘のためにお金を稼ごうと、民主化運動の激化で危険といわれている光州まで往復したいというドイツ人記者の依頼を引き受けるところから始まる。コメディタッチで始まるこの映画が、その後、光州に入ったあたりから緊張感が増していく。民主化運動を進める学生と地元タクシー運転手の家族等との交流が描かれるあたりまでは、コミカルな演技で笑わせるシーンも続くが、その学生が韓国警察に逮捕されると映画は急激に緊張を増し、ソン・ガンホの顔つきも恐怖におののく一市民の顔に変わっていく。
映画の最後には、実際のデモのシーンやドイツ人記者が実名で登場し、歴史映画としての重さ、光州事件という韓国民主化運動の発端となった事実の重要さをずっしりと感じさせてくれる。犠牲になった方々や助け合った市民たちの力をドラマチックに描いており、恐怖の中でも後退することを選ばず権力に立ち向かった人々への敬愛があふれて、心に残る映画であった。
もう一つの映画であるこちらは、軍事政権下で1988年のソウルオリンピックを直前に控えたソウルでの民主化学生運動を描いた歴史アクションムービーだ。1987年1月、ソウル大学の学生が、北朝鮮のスパイを調査している警察の拷問にあって死亡するところから映画は始まる。この厳しい捜査を指揮していたのが南営洞警察のパク所長(キム・ヨンスク)である。
その迫真の演技と手に汗握るシーンの連続に、2時間強の長い映画もあっという間に結末を迎える。厳しい軍事政権に立ち向かった市民たちの強い思いと行動力にただ圧倒される感動大作だった。
この2つの映画はともに、ハリウッドで大人気の「スーパーヒーローもの」とは真逆の立場にある。命と自由を守り抜く決意と行動力を見せる普通の市民こそが、映画のヒーローだ。この「市民力」に圧倒されるのは筆者だけではないだろう。こういった映画を有名俳優が演じ、メジャーな製作会社が配給して大ヒットさせる韓国映画界の「底力」を見せつけられると、現在の日本映画の「ひ弱さ」「従順さ」が気になる。
今回の韓国訪問でも、朝鮮半島の非核化と朝鮮戦争の終結という大きな歴史的転換期を絶対に逃してはいけない、という韓国の人たちの強い意志を感じた。映画が伝える「市民力」が確かに存在していることをまさに痛感させられた。あの朴槿恵(パク・クネ)大統領を倒したキャンドル革命は、このような歴史を乗り越えてきた市民力があってこそだと実感した。
翻って、日本の市民力は今、どうなのだろうか。右や左といった単純な色分けではなく、次元を超えた社会変革を目指す市民の力を忘れてはいないのだろうか。自らも強く反省させられる2本の韓国映画と今回の訪韓であった。
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