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地球はカタストロフィーに向かうのか

米国の第4次気候変動評価報告書が示す温暖化の現実とトランプ大統領のズレ

西村六善 日本国際問題研究所客員研究員

 米国の気候変動評価報告書が公表された。1989年にブッシュ第41代大統領のイニシアチブで始まったもので、その後1990年には立法化され、4年ごとに公表されている。今回の報告書は4回目のもので、内容は2部に分かれている。第1部は温暖化の科学に集中した報告で、既に2017年11月に公表されている。今回、11月23日に公表されたものは第2部にあたり、温暖化の影響、リスク、適応に集中した文書である。

何を警告しているのか

 今回の報告書は明らかに4年前よりはるかに厳しい内容だ。報告書は温暖化は環境を破壊し経済を縮小すると強く警告している。要約すると次のように論じている。

拡大米テキサス州を襲った大型ハリケーン「ハービー」=2017年8月31日、米空軍提供

 世界中での情報と観察により、重要で明確で揺るぎのない証拠は世界の近代文明がこれまで経験したことのない速度で気温上昇が続き、かつ激化していることを示している。

 この温暖化はアメリカを直撃し、大規模な損害を与え、健康と生活の質、経済、社会、自然システムを脅威にさらしている。温暖化の衝撃は過去15年間一貫して悪化し、断固たる攻撃的な措置をとらなければ、米国の被害は甚大化し、カタストロフィーに至る危険がある。待てば待つだけ事態は悪化する。報告書が警告する損害の数値的実態は、この資料が参考になる。

 西部山岳地帯では降雪量が減少し、水の供給に影響を与えている。山火事は長期化し、被害面積は拡大中であるだけでなく、今後もより頻繁に発生する。海洋では海水温度が上昇し、酸性化も進んでいる。海面上昇は着実に進行中だ。サンゴの白化現象が進んでいる。アラスカでは気温が驚異的な率で上昇中だ。北極圏の氷塊も永久凍土も溶解し始めた。陸地と海域の氷雪カバーと土地の湿度維持能力は減少の一途をたどっている。

拡大米カリフォルニア州の住宅街近くで起きた山火事=2018年11月9日、竹花徹朗撮影
 温暖化の深刻化は経済と社会に大きな影響を与えている。熱波と水不足が常態化し、トウモロコシ、大豆、小麦などの米国の主要輸出品に大打撃を与える。家畜の健康にも影響し、畜産業のコストを上昇させる。例えば、熱波のため戸外労働は縮小し、労働の生産性は低下し、低所得層に打撃を加える。また沿岸部での土地・不動産の資産価値も低下する。

 その上、温暖化の影響は世界的になるので、米国企業の世界規模のサプライチェーンも影響を受ける。また、世界の途上地域も同様に温暖化の被害を被るので、その成長は鈍化し、米国製品を購入する能力が低下する。 このようにして、世界経済全体が巨大な混乱に陥り、米国は成長や貿易その他で甚大な影響をこうむる。

 人間活動が温暖化を引き起こしたという証拠は圧倒的で、しかもその因果関係は時間が経つごとに強化されている。地球大の温暖化を緩和するには米国とその他の国が急速に決定的に行動するかどうかにかかっている。

解決策の提示…炭素価格と炭素予算

 ここで重要なことは報告書が具体的な対応策を3点提示している点だ。それは①CO2などの温室効果ガスの排出に価格をつけること、②燃費規制や建築基準などの規制の強化、③R&Dなどのための公的支出だとしている。更に2度などの温度目標を実現するには累積CO2排出量に物理的な上限を設ける必要があり、むしろ、早い時期に大幅な削減をする必要があると論じている。

 これらの諸点はこの報告書の第29章の「Reducing Risks through Emission Mitigation」の項に掲載されている。

 周知の通り、CO2の排出に価格をつけるべきだという議論は世界中で行われているが、累積CO2の排出量に物理的上限を設けるべきだという議論は、今後炭素予算の総量管理に発展する議論として注目される。

これは米国政府のコンセンサス…日本との対比

拡大20世紀半ばと20世紀末の年平均気温の予測差(米国の報告書「Fourth National Climate Assessment」から)

 報告書は環境の悪化を危惧する約1000人の米国の専門家、科学者の調査と研究の成果が集大成されたものだ。過去16年にわたる体系的な研究と調査の結果である点も重要だ。更に重要なことはすべての連邦政府機関が主体的に推進してきた点だ。これは、連邦政府機関のレベルでの紛れもないコンセンサスを示している。それがこの報告書に格別の権威と強い信頼性を与えている。それは米国メディアや関係団体が一致してこの報告書を前向きにとらえていることにも表れている。

 この点は省庁間で意見を一致しきれていない日本と対比される。日本では財界と官庁の一部では依然として温暖化対策に全力で取り組むことに抵抗感が強い。国には温暖化対策以外に、エネルギー・セキュリティー、エネルギー価格の安定、 経済成長、産業政策などとのバランスの確保が必要だという主張だ。この議論が日本のコンセンサスを阻んでいる。

むしろ保守が危機感を持っている

 しかし、米国ではかねて ・・・ログインして読む
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筆者

西村六善

西村六善(にしむら・むつよし) 日本国際問題研究所客員研究員

1940年札幌市生まれ。元外務省欧亜局長。99年の経済協力開発機構(OECD)大使時代より気候変動問題に関与、2005年気候変動担当大使、07年内閣官房参与(地球温暖化問題担当)などを歴任。一貫して国連気候変動交渉と地球環境問題に関係してきた。現在は日本国際問題研究所客員研究員。

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