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「パヨク、ネトウヨはネットが作る」の幻想

社会を分断化する「真犯人」とは

田中辰雄 慶応大学経済学部教授

  はじめに-分極化(polarization)

拡大分極化はネットがつくるのか?
 インターネットが登場した時、ネットの普及は民主主義を良くすると言われていた。いつでもどこでも誰でも議論に参加できることは、人々の相互理解をすすめ民主主義を発展させるだろう。インターネット草創期の人々は素朴にそう思っていた。

 しかし、その後、論調は暗転する。ネットが一般に普及するにつれ、ネットでは極端な意見の人がののしり合う場面ばかりが増えてきた。「ネトウヨ」と呼ばれる右よりの極端な人々が現れ、対する左翼側に対しては「パヨク」という蔑称がつくられる。相手を敵視して攻撃する言葉ばかりが飛び交い、いまや相互理解が深まるような生産的な議論は、ほとんど見られない。

 このように意見が極端化する現象は分極化(polarization)と呼ばれ、典型的には保守とリベラルの意見が過激化して相違が大きくなっていくことをさす。分極化が行き過ぎると議論を通じた相互理解が不可能になり、社会は分断化されていく。 

選択的接触とエコーチェンバー

拡大行きたい方向だけ見ていませんか?
 分極化の理由として、選択的接触(selective exposure)とエコーチェンバー(echo chamber)という現象が指摘される。選択的接触とは、接する情報を人が意識的・無意識的に選ぶことである。新聞やテレビなどの従来型のメディアでは、情報がワンセットで提供されるため、意識せずともある争点についての賛成意見にも反対意見にも自然に触れることになる。これに対し、ネットでの情報源であるSNSやブログでは、フォローする相手・見るサイトを自分で選んでいる。このとき誰しも自分の考えに近い相手やブログを選ぶから、ネットで接する情報は自分の意見に賛同する情報ばかりになりやすい。これが選択的接触である。

 このような選択的接触が行われると、自分と似た意見ばかりに接することになるので自分の意見が正しいという確信が強くなる。これは自分の声が大きく反響して聞こえる部屋にいるようなものだという意味で、エコーチェンバーと呼ばれる。選択的接触が行われ、エコーチェンバーが起こると、人々の意見は過激化し、分極化が起こる。実証研究をしてみるとSNSを利用する人ほど政治的に過激な意見を持つ傾向があることがわかっている。

 実際、ここ10年でみるとネットが政治をよくするという見解はほとんど聞かれなくなり、ネットの問題点を指摘する悲観論が優勢である。

分断化しているのはネット世代ではない

 しかしながら、である。近年、この悲観論に疑問を呈する報告が知られてきた。ネットが社会を分断するのではないという反論である。

 その最大の論拠は、分極化度合いと年齢の関係である。調査対象者を年齢別に分けて分極化度合いを見てみると、分極化しているのは中高年で、若い世代ではないのである。

 筆者らが2017年に行った調査結果を示そう。いくつかの政治的争点、たとえば憲法9条改正に賛成か、経済成長より福祉を優先することに賛成か、夫婦別姓に賛成かなどの問いに賛否を答えてもらい、強く賛成あるいは強く反対なら3点、普通に賛成・反対なら2点、やや賛成・反対なら1点、どちらでもなければ0点をふる。この値は、保守・リベラルどちらについてもその人の意見の過激さを表している。この値が大きければ社会全体として意見の相違が大きいことになるので、これを分極化の度合いと見なせる。

 この値と年齢との関係を描くと図1のようになる。横軸は年齢で、縦軸はその世代の分極化度合いである。明らかに、年齢があがるほど分極化しており、中高年ほど、保守・リベラルどちらにせよ極端な意見の持ち主であることになる。分断化が顕著なのは若年層ではなく、中高年なのである。

図1・分極化指数: 年齢層別拡大図1・分極化指数: 年齢層別
 そうだとするとこれは分極化のネット原因説と矛盾する結果である。若い世代ほどネットを頻繁に利用しているのであるから、ネットの利用で分極化が進むなら若い人ほど分極化していなければならない。ところが事実は全く逆である。これはおかしい。若い人はテレビ・新聞といった従来型メディアを見ずに、ネットで情報収集している。もしネットでは選択的接触が行われ、エコーチェンバーが起こるなら、若い人ほど意見が偏り、分極化していなければならない。ところが事実はまったくの逆で、若い人ほど中庸で穏健である。

 意外に思われるかもしれない。しかし、それをうかがわせる事件・事例はすでにいくつか起きている。たとえば弁護士へのネトウヨの大量懲戒請求事件で、逆提訴で相手の正体を突き止めたところ、若い人ではなく50歳以上の中高年ばかりであったという事件がある。左翼側の事例としては、首相官邸前でデモをしている人は中高年ばかりという事実を思い出せばよいだろう。

 ネットを使うと本当に分極化するのだろうか。これを調べるひとつの方法として時間変化を調べる方法がある。日時の間隔をあけて同じ人に同じ質問を行い、その間の変化を見るのである。これも筆者らの調査結果を紹介しよう。 ・・・ログインして読む
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筆者

田中辰雄

田中辰雄(たなか・たつお) 慶応大学経済学部教授

1988年、東京大学大学院経済学研究科単位取得退学。国際大学GLOCOM研究員、コロンビア大学客員研究員などを経て99年から現職。著書に『モジュール化の終焉』(NTT出版、2009年)、『ソーシャルゲームのビジネスモデル』(共著、勁草書房、15年)、『ネット炎上の研究』(共著、勁草書房、16年)など。