社会を分断化する「真犯人」とは
2018年12月21日
しかし、その後、論調は暗転する。ネットが一般に普及するにつれ、ネットでは極端な意見の人がののしり合う場面ばかりが増えてきた。「ネトウヨ」と呼ばれる右よりの極端な人々が現れ、対する左翼側に対しては「パヨク」という蔑称がつくられる。相手を敵視して攻撃する言葉ばかりが飛び交い、いまや相互理解が深まるような生産的な議論は、ほとんど見られない。
このように意見が極端化する現象は分極化(polarization)と呼ばれ、典型的には保守とリベラルの意見が過激化して相違が大きくなっていくことをさす。分極化が行き過ぎると議論を通じた相互理解が不可能になり、社会は分断化されていく。
このような選択的接触が行われると、自分と似た意見ばかりに接することになるので自分の意見が正しいという確信が強くなる。これは自分の声が大きく反響して聞こえる部屋にいるようなものだという意味で、エコーチェンバーと呼ばれる。選択的接触が行われ、エコーチェンバーが起こると、人々の意見は過激化し、分極化が起こる。実証研究をしてみるとSNSを利用する人ほど政治的に過激な意見を持つ傾向があることがわかっている。
実際、ここ10年でみるとネットが政治をよくするという見解はほとんど聞かれなくなり、ネットの問題点を指摘する悲観論が優勢である。
しかしながら、である。近年、この悲観論に疑問を呈する報告が知られてきた。ネットが社会を分断するのではないという反論である。
その最大の論拠は、分極化度合いと年齢の関係である。調査対象者を年齢別に分けて分極化度合いを見てみると、分極化しているのは中高年で、若い世代ではないのである。
筆者らが2017年に行った調査結果を示そう。いくつかの政治的争点、たとえば憲法9条改正に賛成か、経済成長より福祉を優先することに賛成か、夫婦別姓に賛成かなどの問いに賛否を答えてもらい、強く賛成あるいは強く反対なら3点、普通に賛成・反対なら2点、やや賛成・反対なら1点、どちらでもなければ0点をふる。この値は、保守・リベラルどちらについてもその人の意見の過激さを表している。この値が大きければ社会全体として意見の相違が大きいことになるので、これを分極化の度合いと見なせる。
この値と年齢との関係を描くと図1のようになる。横軸は年齢で、縦軸はその世代の分極化度合いである。明らかに、年齢があがるほど分極化しており、中高年ほど、保守・リベラルどちらにせよ極端な意見の持ち主であることになる。分断化が顕著なのは若年層ではなく、中高年なのである。
意外に思われるかもしれない。しかし、それをうかがわせる事件・事例はすでにいくつか起きている。たとえば弁護士へのネトウヨの大量懲戒請求事件で、逆提訴で相手の正体を突き止めたところ、若い人ではなく50歳以上の中高年ばかりであったという事件がある。左翼側の事例としては、首相官邸前でデモをしている人は中高年ばかりという事実を思い出せばよいだろう。
ネットを使うと本当に分極化するのだろうか。これを調べるひとつの方法として時間変化を調べる方法がある。日時の間隔をあけて同じ人に同じ質問を行い、その間の変化を見るのである。これも筆者らの調査結果を紹介しよう。
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