100%出資し「東京大学エクステンション株式会社」設立、来春から社会人教育開始
2018年12月28日
東京大学が100%出資して「東京大学エクステンション株式会社」を設立し、来年4月からデータサイエンスを中心とした社会人教育を実施することを発表した。筆者は、東大大学院情報理工学系研究科長として、基本理念や組織構造の設計に関わってきた。国立大学がデータサイエンスの社会人教育を主目的とした株式会社を子会社に持つことは初めてのことである。この会社を設立することで、東京大学は何を目指しているのか、その背景とともに解説する。
近年、データサイエンスの必要性が声高に叫ばれている。データサイエンスとは、大量のデータから意味のある情報を抽出し、活用していく科学技術を意味する。情報科学技術の急速な進歩を背景として、従来の統計学から発展し、広範な応用展開が急速に進んでいる分野である。ネット検索で興味のある案件が上位にリストされるのも、大量の画像などからパターン認識により顔認識や対象の認識が正確にできるのも、ひいては自動運転や経済の予測が出来るのも、データサイエンスの近年の進歩が直接的、間接的に寄与している。
具体的には、コンピューター技術の進歩によって、従来では考えられなかった大規模データの処理が可能になったこと、ネットワーク技術の進歩により、携帯電話、web、IoTなどを介して大量のデータの取得が容易になったこと、新しい計算理論が提案されてきたことなどが大きく寄与している。
この動きは、データや情報の価値に対する社会通念を大きく変え、関連する産業構造を根底から変革し、その結果として社会生活や企業形態を一変させる可能性を秘めており、もはや、ビッグデータを扱えなければ競争力のある事業は成立しない時代となっている。その結果、技術系はもちろんのこと、金融系、サービス系、営業系に至るまで、データサイエンスのスキルは不可欠となっている。
ところが、データサイエンスに詳しい人材がまるで足りない。文部科学省が「数理及びデータサイエンスに係る教育強化事業」を始め、人材不足の解消に乗り出してはいる。東京大学でもデータサイエンスの教育研究センターとして数理・情報教育研究センターを2017年2月に設立し、文科省の事業の拠点校・幹事校として、全学レベルでの教育強化を行っている。
しかしながら、情報科学技術の変化は急速であるのに対して、大学・大学院での教育は、年次進行であることから、輩出される総人数は自ずと限界がある。仮に、必要な分野の入学定員を大幅に増やしたとしても、効果が表れるのは学部卒で4年後、修士卒で6年後が最短となるわけで、科学技術の進歩に見合うスピードでの変革は、原理的に不可能である。技術の急速な進歩は、従来技術がたちまち陳腐化することをも意味し、我々は「科学技術分野の短命化」に直面しているといえる。
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