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国際捕鯨委員会脱退で得るもの、失うもの(中)

「南極から撤退、沿岸域で捕鯨」という妥協案を一転して飲むわけ

佐久間淳子 フリージャーナリスト

 日本政府は昨年12月、国際捕鯨委員会(IWC)を脱退すると国際捕鯨取締条約の寄託国である米国に伝えた。脱退は2019年6月30日に確定する。「このままIWCにとどまっても商業捕鯨再開の可能性はない」という理由だが、どんな意味があるのだろう。

IWCが作った捕獲頭数算出式を利用

 日本は脱退後もIWCのオブザーバーの地位を利用して、商業捕鯨を再開し、IWCがすでに開発した商業的捕獲枠の算定方式「RMP」を利用するとしている。

 RMPは、乱獲が極めて起きにくい捕獲枠を割り出す計算式で、必要な情報としては、捕鯨が始まる前の生息数(初期資源量)、これまでの捕獲実績、現状の生息数だが、算出には何千パターンもの試験を必要とする。

 そのうちどれを採用するか。決まるまでにさらに検討が続く。日本が商業捕鯨を始めようとしている北太平洋のミンククジラは、比較的その作業が進んでいる。国立研究開発法人水産研究・教育機構によると、現状では「100年間の平均で年69頭程度(最小17頭、最大123頭)」がもっとも妥当だと、紹介している。

 「少ないな」と思う人は多いだろう。少ないどころではない。2018年に行った調査捕鯨では、北太平洋のミンククジラを計170頭を捕獲している。RMPの試算の倍以上を「調査」名目で捕っているのだ。これが、IWCに加盟して調査捕鯨を続けるメリットのひとつだった。逆に言うと、RMPを用いた場合、商業的には非常に厳しい数字が出てくる可能性が高い。

 日本はRMPの計算式を独自に運用して、商業捕鯨の捕獲枠を算出するようだ。IWCよりも捕獲可能頭数を多くはじき出せる可能性はあるだろうが、これまで調査捕鯨で捕獲してきたような規模になるとは考えにくい。

鯨肉の供給量の推移鯨肉の供給量の推移

 今回踏み出す商業捕鯨で、出番が復活したのがニタリクジラである。2000年から2016年まで調査捕鯨の対象だった。ただ、調査捕鯨で得たニタリクジラの肉は、過去に一度だけ試みられた入札方式での販売では、81.2%が売れ残った。

 全体の供給量が減って希少価値が高まればニタリクジラの売れ行きも向上するかもしれないが、「鯨肉が売れない!」~鯨研自らが公表した、入札結果の惨状~を見れば明らかなように、調査捕鯨したクジラのなかでは「売れない鯨種」なのである。

 イワシクジラは、調査捕鯨時代に北西太平洋産鯨肉の9割を占め、そのほとんどが公海での捕獲だった。200カイリ内での捕鯨の対象として、現在どのくらい期待できるのかは、まだわからない。

 一方、かつて調査捕鯨で捕獲していたにもかかわらず、商業捕鯨の対象に名前が挙がらなかったのが、マッコウクジラである。

 大阪のおでん「関東だき」に入れるコロなど、「これでなくちゃ」という人気はあるものの、

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