15歳の少女に叱られて考えた、脱炭素化する世界の総括と展望
2019年01月01日
ポーランドのカトヴィツェで行われていた国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP24)がパリ協定の運用ルールをなんとか合意して昨年12月に閉幕した。気候変動問題をめぐってもいろいろなことがあった2018年が過ぎ去り、2019年が始まる。
昨年、筆者の心を大きく揺さぶったのは、COP24の直前に、オーストラリアで数千人の子供たちが学校を休んで、政府に気候変動対策を求める抗議行動を行っているというニュースだった。さらに、それに先立ち、スウェーデンの15歳の少女、グレタ・トゥーンベリさんが、夏に議会前で2週間の座り込みをして、世界の子供たちに影響を与えたことを知った。12月にはスイスでも千人の子供たちが立ち上がった。
その話をする前に、気候変動問題において2018年がどんな年であったか、少し振り返ってみたい。
自然科学的な側面からいうと、2018年の世界平均気温は観測史上4位を記録した。これは、弱いラニーニャが起こり、世界平均気温が低くなりやすかったことを考えると順当な結果だろう。世界平均気温は自然変動の影響を受けながらも高止まりが続いている。
日本においては、西日本を襲った7月豪雨、引き続く災害級の猛暑、非常に強い勢力で上陸した台風21号、24号といった気象災害が強く印象に残る年となった。東日本の気温は、夏季はもちろん年平均でも過去最高を記録した。年々不規則に変動する気圧パターンにより、これらの「異常気象」が昨年もたらされたことは、いわば偶然だ。しかし、これらが「記録的な異常気象」になった背景には、地球温暖化の長期傾向による気温のかさ上げと水蒸気量の増加があったといえる。そして今後も同様の現象が増え続ける傾向にあることは、もはや必然だ。
海外でも、カリフォルニアの山火事をはじめとして、多くの記録的な自然災害が発生し、気候変動対策の議論に影響を与えたとみられる。国内の報道でも異常気象が注目を集めたが、筆者の印象では、その文脈は概ね「防災」に留まった。昨年法制化された「気候変動適応」の観点からも、防災の強化自体は重要なことだ。しかし、異常気象の増加を食い止めるための気候変動緩和(温室効果ガス排出削減)に多くの人の意識が向く機会になったと言い難いのは残念だった。
対策の進捗に目を向けると、パリ協定にあたり各国が提出した国別目標は、すべて達成しても気温が3℃前後上昇するようなペースであり、2℃や1.5℃未満というパリ協定の長期目標を達成する削減ペースとは大きなギャップがある。これはパリ協定の合意時点でわかっていたことだ。
しかし、パリ協定の合意以降、世界からは再生可能エネルギー(再エネ)の価格低下と導入拡大、電気自動車の普及促進、機関投資家や金融機関による石炭への投融資の撤退、再エネ100%(RE100)等を掲げる企業の増加、野心的な排出ゼロ目標を掲げる自治体の増加といったニュースが相次いでいる。このような「非国家アクター」によるボトムアップの行動が、技術と社会のイノベーションの志向を伴って、大きなうねりを生み出しているようにみえる。
このような行動から、政府が計画できなかったような大幅な対策の実現可能性が実証され、政府もその拡大を後押しするように新たな制度や目標を導入し、その相乗効果で当初目標以上の対策が進んでいくというのが理想であろう。
では現状でその効果はいかほどか。世界全体のCO2排出量の推移をみると、2014-2016年は排出量が横ばいで、ついに世界はCO2排出を増やさずに経済成長できるフェイズに入ったか、という期待が垣間見えた。引き続く2017年は排出量が若干増加したが、中国の景気の上振れなど変動要因があると思い、筆者は経過を見守った。
そうして注目していた2018年の排出量であるが、結果は残念ながら引き続き増加となった。インドをはじめとする発展途上国で人口増加と工業化が続いており、そこに必要なエネルギー需要の増加を満たすために、現状ではまだ化石燃料需要が増加せざるを得ないのが世界の実態だということだろう。減少基調に入っていた中国の石炭利用も去年は増加した。再エネは世界で加速度的に増加しているが、絶対量はもちろんのこと、その増加速度も未だ十分ではないようだ。
日本においては、CO2排出量は緩やかな減少傾向が続く。これは固定価格買取制度(FIT)により再エネが増加したことに加え、いくつかの原発の再稼働の効果とみられる。しかし、日本も優等生からは程遠い。太陽光発電の乱暴な増加をもたらしたFIT制度はその歪みの見直しを迫られた。九州ではピーク時に太陽光発電が抑制を余儀なくされ、電力系統の柔軟性整備の遅れが露わになった。また、国内で多くの石炭火力発電の新設計画があり、海外の石炭にも日本企業の関与が大きいとされる。
このようにして振り返ると、2018年は非国家アクターの行動などで希望も多く感じられたが、そのうねりの勢いが世界の排出量を減少に転じさせるにはまだ足りていないことを直視させられ、焦燥を感じざるを得ない年となった。
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