メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

日本が発信する最先端の睡眠科学

脳にとって「眠る」「夢を見る」とは何だろうか

北原秀治 東京女子医科大学講師(解剖学講座)

 私たちの人生の3分の1は、睡眠時間が占めている。ヒトはなぜ眠らなければならないのか? 睡眠には一体どういう意味があるのか? そのメカニズムには、まだ解明されていない部分が相当ある。2019年の幕開け。睡眠科学者たちはどんな初夢を見て、睡眠の秘密が解き明かされる未来を描いたことだろう。

拡大眠りのメカニズムは未解明だ

 謎に満ちた睡眠の問題に、果敢に立ち向かっている世界的に有名な研究者が日本にいる。東京大学の上田泰己教授と筑波大学の柳沢正史教授だ。ハーバード大学で昨年11月に行われた「The Japan-US Science Forum」において、「The Science of Sleep」をテーマに2人が最先端の研究を発信した。筆者も企画と運営に携わったこのフォーラムの内容を報告する。

浅い睡眠なら不要なのか

 睡眠には複数の異なるステージがある。そのうちの一つ、眼球運動を伴わない睡眠ステージのことを「ノンレム睡眠」 (Non-Rapid Eye movementの頭文字)という。ノンレム睡眠は一般的にはぐっすりと寝ている状態で、人間はノンレム睡眠の最中に強制的に起こされると、すぐさま活動を開始することができない、いわゆる「ねぼけ」の状態になる。

 一方、もう一つの状態の「レム睡眠」(レムはRapid Eye Movementの頭文字)は、眼球運動を伴う睡眠である。レム睡眠中の身体は、自分の意思で動かせる骨格筋という筋肉が弛緩しており(緊張状態にはない)、いわゆる休息状態にあるが、眼球運動を伴うほど脳が覚醒状態にある。東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学の上田泰己教授は、このレム睡眠のメカニズムの研究をしている。 

 上田教授が率いる理化学研究所生命機能科学研究センター合成生物学研究チームは、レム睡眠に必須な2つの遺伝子を発見し、レム睡眠がほぼ無くなっても生存するモデルマウスの作製に、世界で初めて成功した。「この2つの遺伝子を発現させないマウスは、通常のマウスに比べて睡眠時間が短くても生存できる」と、上田教授は言う。

拡大ハーバード大学で講演する東京大学の上田泰己教授

 この結果を見ていると、そもそも長時間の睡眠は必要なのだろうかという疑問も湧いてくる。しかし過去の研究では、睡眠を阻害され続けたラットは体重減少、脱毛、皮膚の損傷、自律神経異常や多臓器不全を呈し、最終的には命を落とすと報告されている。ヒトにおいても、睡眠が不足し続けると、過剰なストレスの結果、日常生活におけるパフォーマンスが低下するのは誰もが感じる出来事である。やはり睡眠とは、「浅い眠りなら必要ない」などと片付けられるような単純なものではないということだろうか。

夢の役割とはなにか?

 睡眠研究の大家である筑波大学の柳沢正史教授は、この「なぜ我々は眠らなければならないのか」という問題を追求し続けている。柳沢教授は神経に関わる「オレキシン」という物質に注目し、この遺伝子を発現しなくしたマウスを観察して、活発に動くはずの夜間に、突然止まって床に倒れるなどの異常行動を見出した。「この異常行動は、覚醒から一気にレム睡眠に移る特殊な障害である」と柳沢教授は説明する。

 上田教授と柳沢教授の2人の研究によって、 ・・・ログインして読む
(残り:約1663文字/本文:約2990文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

北原秀治

北原秀治(きたはら・しゅうじ) 東京女子医科大学講師(解剖学講座)

東京女子医科大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。ハーバード大学博士研究員を経て現職。専門は人体解剖学、腫瘍病理学、医療経済学。日本政策学校、ハーバード松下村塾で政治を学びながら、「政治と科学こそ融合すべき」を信念に活動中。早稲田大学大学院経済学研究科在学中。海外日本人研究者ネットワーク(UJA)理事。

北原秀治の記事

もっと見る