誰も取り残さず、食と農の発展に取り組むために
2019年01月18日
福島大学は2019年4月に農学群食農学類という新しい教育研究組織を開設する。「学類」は正確には学部ではないが、教員38名、学生100名と規模は小さいものの、ほぼ学部に相当する組織である。
福島県は震災前の農業生産額が全国4位、林業生産額が7位の全国有数の農林業県であった。農地や林地の汚染の影響は大きく、米、野菜、果樹、山菜やきのこ類などに出荷制限が行われた。特に、水稲は2011年秋の基準値超えによって安全性が大きく揺らぎ、翌年から栽培制限、放射性セシウムの移行抑制対策、農地の除染、そして、すべての米を出荷前に測定するという全量全袋検査態勢の確立へと動いた。
一方、林業では、原発周辺を除いて素材生産は継続しているものの、全国トップの生産を誇ったしいたけ原木生産がほぼ停止するという事態に至った。しいたけをコナラやクヌギといった広葉樹の丸太に植菌して栽培する原木生産に使われる原木は、計画的な生産が行われてきた阿武隈山地の産地を中心として福島県から全国へ出荷されてきた。
日本の農林業の発展を考えるときに、新しい「農学部」をどのように位置づけたらよいであろうか。組織名である「食農学類」は、農学系の教育研究において特に「農場から食卓まで」のフードチェーンのつながりを強く意識したものである。食品科学、農業生産学、生産環境学、そして農業経営学の4コースからなる。教育方針として、実践性、学際性、国際性、そして貢献性を掲げている。1年生は全員が同じ「農場基礎実習」を履修し、農作物の育つ環境、栽培法、食品加工、そして、販売までを一連のものとして学ぶ。さらに、2年次後期から1年半をかけて、「農学実践型教育」を受ける。これは、15名ほどの学生が、4コースの教員とともにチームを組み、県内9市町村をフィールドに、地域課題に向き合うものである。学生は2年次後期には各コースに分属するが、チームには自分とは異なるコースの学生、教員もいるので、自分の専門分野を深めつつ他の分野の考え方と交流することで、総合的に問題解決を行う能力を磨く。
復興予算によるハード面の整備は、地域における雇用の増加につながるが、働き手にとってかならずしも魅力があるとは限らない。長期の避難によって、特に子育て世代は元の住居に戻る意向は大きく低下した。年配者ほど帰還率が高い。平均寿命が長くなり、以前より長い時間にわたって活躍できる人材は多くなったかもしれないが、あとに続く世代がない地域社会は、将来を展望することが難しい。
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