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選定から10年を経た「にほんの里100選」

呼び起こした関心をもとに、これからの里のあり方を考えていこう

米山正寛 朝日新聞DO科学編集長

 「にほんの里100選」を朝日新聞社と森林文化協会が発表してから10年になる。人々の営みによって育まれてきた健やかで美しい里を応援しようと、2008年1~3月に候補地を募集したところ、全国から4474件の応募があり、候補地は2000地点以上に達した。現地に詳しい人たちの意見などを参考に、候補地を約400地点に絞り込んだ上で現地調査を実施。その結果を持ち寄り、映画監督の山田洋次さんを委員長とする「にほんの里100選」選定委員会(5人)の審議で各都道府県に1~4カ所ずつ、合計100カ所を選び、2009年1月に発表した。

拡大冬の落ち葉掃きは雑木林の維持に欠かせない。集められた落ち葉は貴重な畑の肥料として使われる=三富新田(埼玉県)、筆者撮影
拡大琵琶湖に近い湿地で刈り取られたヨシは、ヨシ蓑やヨシ葺き屋根の材料として、暮らしに役立てられてきた=白王・円山(滋賀県)、筆者撮影

基準は人の営み、景観、生物多様性

 このとき、里とは、人々が居住する集落と、周辺の田畑や草地、海辺や水辺、里山などの自然からなる地域とした。そして広さにかかわらず、人の営みがつくった景観のひとまとまりを一つの里ととらえた。選定の主な基準としたのは、里に欠かせない人の営みと景観、そして生物多様性の3点だった。人の営みとは、美しい風景を維持して生き物の生存を支えながら、里の恵みを生かす暮らしや取り組みがある、あるいは、そうした暮らしを築きながら持続させようとする人々がいること。景観とは、暮らしが生み出した特色ある風景がまとまりをもって見られる、あるいは、里の姿が全体として調和していて美しいこと。生物多様性とは、かつての里でよく見かけた動植物が今もすこやかに生きている、あるいは、そうした生き物やその生育・生息環境を再生する試みなどがあること。もちろん、これらの3点がそろっていれば望ましいが、一つでも強く訴えられる点があれば、それはそれで大きな価値があるとみなされた。

 発表後、朝日新聞紙上に紹介記事が何度も掲載されたのに加え、名古屋市と金沢市では関連のシンポジウムが開かれ、100カ所を網羅したガイドブックも発行された。また、地元の関係者や朝日旅行などの協力を得て、日帰りや泊りがけのツアーも企画されるようになった。私は選定に直接関わることはなかったが、昨春まで6年間所属した森林文化協会において、選定地を取材して記事を書いたり、選定地を訪ねるツアーに同行したりする中で、いくつもの里と関わりを持つことができた。そして、美しい景観や豊かな生物多様性、伝統的な人の営みが創り出す里の魅力を感じながら、歳月の流れの中で避けられない里の変化に気付かされることもあった。

地域の活性化や知名度の向上に役割

拡大星峠の棚田は冬枯れの景色も美しい。水の入った小さな田が、たくさんの鏡のように見える=松代・松之山(新潟県)、江川慎太郎撮影
拡大「上関原発」の建設に反対してきた島は、美しい景観と伝統文化の島としても知られるようになった=祝島(山口県)、徳山徹撮影

 うれしかったのは、選定が地域活性化のきっかけとして働いたケースが、いくつもあったことだ。たとえば徳地串(山口県)では、岩が落ちて埋まっていた「天神の滝」を再生させようと声が上がり、岩を掘り出して遊歩道も整備し、賑わいを取り戻したそうだ。別所・国信(鳥取県)では、ウォーキングの町づくりに取り組む中で、地域の名産であるナシの畑を眺めて歩くコースを新設したという。また甲南町杉谷新田(滋賀県)を訪ねると集落の入り口で「にほんの里」と書かれた看板が迎えてくれ、特産の伝統野菜のアピールにも役立てられた。インターネットで検索すると、星峠の棚田が美しい松代・松之山(新潟県)のように、多くのサイトで「『にほんの里100選』に選ばれた」と紹介されている里に巡りあうことができる。

 盛んになってきたエコツーリズムなどと結びつき、知名度の高まってきた里もある。「マタギ発祥の地」とされる阿仁根子(秋田県)は、旅情豊かな秋田内陸縦貫鉄道を利用して訪ねられるため、小規模なエコツアーの対象としてしばしば取り上げられている。熊野古道が通る桑畑果無(奈良県)は、近くを通る日本一の長距離路線バスと組み合わせたツアーが人気のようだ。急峻な斜面に立地して「天空の里」と呼ばれる遠山郷・上村下栗(長野県)は、引っ越し会社のコマーシャルに登場してから「絶景」として有名になり、来訪者が急増したと聞いた。かつて火を燃やして海上交通の目印にしたことにちなむ棚田のLEDイルミネーションが、幻想的な風景となって注目を集めている石部(静岡県)など、伝統の上に新しい試みを仕掛けて成功している里も数多く見受けられる。

拡大斜面を切り開いて築かれた「天空の里」が朝霧の中から姿を現した=遠山郷・上村下栗(長野県)、依光隆明撮影
拡大棚田の畦がLEDイルミネーションで縁取られた。海の向こうには静岡市の明かりが見える=石部(静岡県)、杉本崇撮影

 「にほんの里100選」は、里への関心を呼び起こす力になったようにも思う。環境省は ・・・ログインして読む
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筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) 朝日新聞DO科学編集長

朝日新聞科学医療部記者兼DO科学編集長。朝日新聞の科学記者を経て公益財団法人森林文化協会へ出向し、事務局長補佐兼「グリーン・パワー」編集長を務めた。2018年4月から現職。ナチュラリストを夢見ながら、とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せて取材活動を続けている。

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