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米国の「民間」有人ロケットの背景と不安

一時的にソユーズに匹敵しても、半独占市場ゆえに再び割高・危険になるのでは?

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 スペースシャトル後継の有人ロケットとして米国航空宇宙局(NASA)から開発を委託されていたスペースX社「クルードラゴン」とボーイング社「スターライナー」の両方が、最後の試験である「空乗り打ち上げ」にいよいよ挑む。

有人ロケットにも市場原理が入る時代

 スペースX社は実業家イーロン・マスク氏が立ち上げたベンチャーで、ボーイング社は言わずと知れた世界最大の航空機メーカーだ。いずれも民間企業ではあるが、現実にはNASAの下請けという形だ。つまり、名目上の開発費と、その後の政府絡みの納入・運用契約(NASAと軍関係の両方)で、現実の開発費をまかなう。

拡大有人宇宙飛行の飛行士9人と、スターライナー(左)、クルードラゴン=NASA提供
 その意味では「傭兵会社」と同じく、純然たる民間ではない。欧州におけるエアバス社や日本における三菱とIHIと同等だ。ただ、基本デザインから試験、中間レビューに至るまでNASAの役割がごくわずかになったのは確かで、しかも実質的な競争入札で開発コストを節約した。だからNASAは「民間」をとりわけ強調しているのである。

 クルードラゴンもスターライナーも、「空乗り」試験の後は有人飛行試験を予定しており、問題が無ければ国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙飛行士の足として契約通りに運用を始めるだろう。これはソユーズの独占状態にある有人ロケット打ち上げが、複数機体制に移ることを意味し、緩やかな競争で値段が下がると期待されている。

ソユーズ独占の表向きの理由:コスパと信頼性

 前稿「嫦娥4号の月着陸成功が示す中国の宇宙技術」にも書いたように、米国と旧ソ連の宇宙開発競争は冷戦終了とともに下火となり、宇宙予算、とりわけ有人ミッション予算が大幅に減った。例えばロシアの宇宙ステーションと米国のスペースシャトルは ISSに統合され、建設費から含めた総費用も20兆~30兆円の規模に抑えられている。巨額ではあるが、国家予算と比べると米国ではアポロ計画より1桁ほど少ないし、ロシアはもっと節約している。

拡大打ち上げ準備をするソユーズ=2017年12月、カザフスタン、小宮山亮磨撮影
 そんな懐具合の厳しいロシアだからこそ、人工衛星のニーズが年々高まった流れに乗って、ロケット打ち上げを世界に先駆けてビジネス化した。その牽引力となったのがソユーズだ。「ソユーズ」とは、ソユーズ型打ち上げロケットとソユーズ宇宙船の総称で、ソユーズ型打ち上げロケットは、そのコストパフォーマンスと信頼性(現在までに1700回以上も打ち上げて成功率97%)から冷戦後に西側諸国に浸透し、欧州宇宙機関も中型の主力打ち上げロケットとして頻用している。

 信頼性の高さは、ソユーズ宇宙船にも当てはまり、たとい打ち上げロケットのほうに問題が生じても乗組員は助かってきた。昨秋10月の打ち上げ失敗がその例で、ソユーズの安全性を改めで浮き彫りにした。しかも失敗から僅か2ヶ月で再開した。一方のスペースシャトルは2度も失敗して2度とも乗組員が犠牲になり再開にも1年半かかっている。それでいてコストパフォーマンスはソユーズより圧倒的に悪い。スペースシャトルが引退するのも当然なのだ。むしろ引退が遅すぎたとすら言えよう。

 ソユーズの信頼性が高いのは、人を運ぶことと低高度への打ち上げに専念して、古い時代の最もシンプルなデザインを維持しつつ、その最適化に努め、大型化・複雑化の道をあえて選ばなかったからである。打ち上げロケットと宇宙船が一体的に開発されたのも安全性に寄与している。

ソユーズの独占の別の面:米国のロケット開発の迷走

拡大着陸するスペースシャトル「アトランティス号」のオービタ=NASA提供

 とはいえ、ソユーズだけが生き残ったのは、ライバルであるはずの米国の迷走にも原因がある。米国は冷戦時代も、その後の10年間も、本当の意味でのコストパフォーマンスを追求してこなかった。過去のどの開発にも余分な機能を付けすぎて、それが安全性とコストパフォーマンスを落として来た。しかも一つのモデルを究極まで最適化する「地道な努力」を怠って来た。 ・・・ログインして読む
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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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