日本が学びたい「透明性」と「合理性」、そして「学習して改善する姿勢」
2019年02月06日
北欧フィンランドで、社会的なインパクトを与えることを目指す国家研究プロジェクト「フラッグシッププログラム」が始まっている。日本にも同様のプロジェクト、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)がある。昨年まで総合科学技術・イノベーション会議の常勤議員を務めた私は、総額550億円に上るImPACTの設計から選考、そして運営に関わった。その経験が買われたのか、フラッグシッププログラム選考委員会のインパクト部門の座長になるよう依頼され、プログラム開始2年目の選考に参加した。そこでの経験は驚きにあふれていた。そもそも国のありようが違うことから生じる差もあるが、透明性を大切に合理的に選考を進めていくところは日本にとって大いに参考になると感じた。
フィンランドは、2017年に建国100周年を迎えた。その節目の年に始めたのがこのプログラムで、「最先端の研究、経済成長及び社会へのインパクト、社会一般と経済界の緊密な連結、適応性、ホストとなる研究機関の責任ある関わり」が効率的にミックスされたものとされている。目指しているのは世界にインパクトを与えること。この国は面積こそ33.8平方キロと日本よりやや小さい程度だが、人口は約550万人しかいない。だからこそ、フィンランド国内だけを見ていてはダメだという意識があり、常に世界に目を向けているといえる。
選考委員は、科学部門と合わせて14人。最初に驚かされたのは国籍だ。「外国人を入れるかどうか」ではなく、「自国人を入れるかどうか」が議論されていた。理由の一つは、人口規模が小さいがゆえに、応募者とつながりのない完全に中立な選考委員を選ぶのが難しいということ。もう一つが、グローバルな視点での選考が必須だということだ。
選考を前に事務局から言われたのは「フィンランドの研究拠点ではなく、世界の拠点をつくりたい」だった。そのために「グローバルな視点で評価をしてください」と要請された。最終的に、外国人だけで評価がお門違いにならないようにと1人だけフィンランド人を入れた。研究者ではなく、ベンチャーキャピタルの人だ。
このプログラムの資金は、実績のある研究機関が、国内外の垣根を越えてつながる「クラスター」をつくために使われる。研究資金のすべてをまかなうものではなく、金額的にはほんの一部に過ぎない。また、いくつ採択するかもあらかじめ決まっておらず、ある意味「実験的」なプログラムである。
フィンランドは欧州連合(EU)の一員で、主な研究機関はフィンランド政府資金だけでなくEUからの研究費をとるのが当たり前になっている。応募者は、過去の実績をベースに2019-2026 年の期間にどのぐらい研究資金が獲得できるかを推定した上で、プログラムへの要求額とともに、この資金を如何に効果的に活用するかを提示することとなっていた。
フィンランドはいま、イノベーションを求めている。フィンランドの顔とも言える携帯電話会社ノキアは1998年から2011年まで携帯電話の世界トップシェアだった。しかし、スマートフォンの台頭で市場を奪われ、経営危機に陥り、米マイクロソフトに買収された。時期を同じくして国内総生産(GDP)もマイナス成長に転じたが、ここ数年はプラスに転じている。かつて「ノキア城下町」として知られた都市オウルでは、ノキア出身者らによって次々と新しいスタートアップ企業が生まれ、新たな潮流が生まれつつある。その流れを確かなものにするためのプログラムなのだと感じた。
2017年に2件が採択され、私が選考にかかわった2018年は
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