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ドイツはなぜ一流の研究成果を出し続けられるのか

アメリカとは正反対の研究環境こそ「研究者としての能力を一番発揮できる」

小松英一郎 マックス・プランク宇宙物理学研究所所長

20年間国外で研究し、日本の論文数減少に驚く

 今、日本で生み出される論文数は減っているらしい。事実とはいえ信じがたい事態である。20年前に東北大で修士の学位を取ってから国外に研究の場を移した僕には、何が起こっているのかよくわからない。しかし昨年、財務省主計局次長の神田真人氏が、国立大学のありようを批判したインタビュー記事を朝日新聞や読売新聞で目にして、腑に落ちた。要するに、財務省は国立大学の研究者を信頼できていないのである。

 神田氏の主張は、国立大学の研究者は競争させて研究費を取らせないと、「既得権を当然視し、自分の城壁に閉じこも」り、「『生産性』が低く」なり、「国際的、学際的な研究が生まれにくい」(カギ括弧内は、2018年10月18日付朝日新聞から)。つまり、競争的資金で研究しない研究者には、一流の成果は挙げられないと言う考え方である。

アメリカの大学の競争的資金至上主義に疲れた

 競争的資金を重視する考え方は、アメリカではより顕著である。僕は、プリンストン大学で4年間、テキサス大学オースティン校で9年間研究したが、まさに競争的資金至上主義であった。競争的資金を取って来ない研究者は、大学に在籍する価値がない、とされるほどであった。

 プリンストン大学は私立だが、テキサス大学は州立である。それなのに州からの資金は減らされる一方で、大学予算に占める割合は1984年にはほぼ半分だったのに2017年には12%になってしまった。2017年の同大の予算を見ると、22%が競争的資金や企業等の受託研究によって賄われている。州からの資金の倍近い。大学のニュースでは、華々しい研究業績を挙げたことよりも、巨額の研究費を取ってきたことの方が、大きく取り上げられる。研究費を取ってきただけで、まだ何の発見も発明もされていないのに、である。僕はこのような状態に疲れてしまい、2012年からドイツに移った。

 そこには、全く違う景色が広がっていた。

ドイツは大学予算に占める政府資金の割合が大きい

 僕は現在、大学ではなく、マックス・プランク研究所の一つに所属している。立場はディレクターで、日本語にすると「所長」である。日本、アメリカ、ドイツの、どこが一番研究しやすいですか?とよく聞かれるが、日本では修士までだし、アメリカでは大学の教授だったし、ドイツでは研究所のディレクターなので、比較はできない。でも、今が一番自分の能力を発揮できて、研究者として幸せである、と感じている。

拡大マックス・プランク協会のAnnual Report 2017より抜粋
https://www.mpg.de/12075461/2017

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筆者

小松英一郎

小松英一郎(こまつ・えいいちろう) マックス・プランク宇宙物理学研究所所長

1974年、兵庫県宝塚市生まれ。東北大学理学部卒。米プリンストン大学博士研究員、テキサス大学教授を経て、2012年より現職。東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)主任研究者。日本天文学会林忠四郎賞、米国天文学会ランスロット・バークレー賞、基礎物理学ブレイクスルー賞など受賞。小説家の川端裕人氏と共著『宇宙の始まり、そして終わり』。ミュンヘン日本人会会報にエッセー「小松英一郎の『天文学者ですがなにか?』」を連載中。