「天然」の植物にとっての「遺伝子組み換え」と「ゲノム編集」 (3)
2019年02月18日
作物の進化の歴史は、われわれ人類の文明の歴史でもあり、私のような植物分子遺伝学者たちに多彩で驚くべき遺伝子変異の姿を垣間見せてくれる。例えばトウモロコシ。子供の頃、お祭りや縁日の露店で焼きトウモロコシを食べるのが好きだった人も多いのではないだろうか。甘い黄色のトウモロコシ、醤油がちょっと焦げた香ばしい味。私も大好物で、盆踊りなどでよく頬張った。歯の隙間に粒々が詰まったりしたけど。
大きな黄色の粒が何列も並ぶトウモロコシは独特で、1粒ずつ硬い外皮に包まれている小麦や稲など他のイネ科作物と形状が大きく異なっている。17世紀にポルトガル人によって日本に伝来したとされ、中国(唐)から来た訳ではないが「南蛮由来の」という意で「唐のモロコシ(Sorghum bicolor、ソルガムという背の高いススキのような植物)」と呼ばれるようになったそうだ。方言によっては「トウキビ」とも言うそうだが、キビ(Panicum miliaceum)は「吉備団子」でもおなじみの古くから日本で食された穀物だ。
トウモロコシの起源は中南米で、今から8000年ほど前にはメキシコ中西部で栽培されていたとされる。だが、そのあまりに独特な風貌から、「一体どの野生植物がトウモロコシの祖先だったのか」、その正体をめぐって研究者の間でも長く論争が続いていた。分子遺伝学やDNA解析技術、考古学的手法の発展などに伴い、この問題に最終的な決着がついたのは、実に2001年のことだ。
今では、トウモロコシ(Zea mays spp mays)の野生種はテオシント(Zea mays ssp Parviglumis)であると結論されている。けれども、トウモロコシとテオシントは外観が全然違うため、「見かけ」から類縁関係を見出すのは難しい。トウモロコシ植物は、茎が1本だけずんと伸びて、先端にススキのような雄花がバサバサでき、下の方に雌花(トウモロコシの実になる部分)がつく。成熟した実の皮をむくと、果実(コーンの一粒一粒)が殻にも入らず露出したまま整然と並んでいる。一方、テオシントは、細い枝が何本もあるボサボサな感じのイネ科の雑草で、硬い殻に包まれた数個の果実をつけ、それが成熟するとパラパラ落ちてしまう。
このように、植物も実も見かけが全く異なるトウモロコシとテオシントだが、なんと
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