嘉手納基地による水源汚染は、日米地位協定が壁となり調査できない
2019年02月14日
昨年12月の国会で水道法が改正された。法改正の柱は、自治体が水道事業の運営権を民間企業に委託する「コンセッション方式」の促進である。水道は我々の生活に必要不可欠な社会的共通資本であるが、法改正で民営化に向けたハードルが下がったことにより、水道事業の大きな転換点につながる可能性がある。筆者が暮らす沖縄の地でもし水道が民営化されたら、何が起きるだろうか。
「社会的共通資本」とは、経済学者宇沢弘文が提唱した概念で、森林、大気、水道、教育、報道、公園、病院など産業や生活にとって必要不可欠な社会的資本のことであり、宇沢は、利潤追求の対象として市場に委ねられてはならないと主張している。
しかし近年、水道管の老朽化が進み、耐用年数をこえた管が増え続けている現実にどのように対応するかが問われるようになってきた。本来ならば国や自治体が計画的に設備更新を図っていくべきであったが、現実には自治体のコスト削減のため水道事業分野の独立採算化と、水道事業を企業に売り渡す「水道民営化」が次々と進められてきたのである。
2001年に第一次小泉内閣が行った水道法改正では、水道の民間委託を可能にする内容を盛り込んでいたのだが、仏ヴェオリア社などの外国企業は、日本の水道事業への積極的な参入姿勢を示さなかった。業務を丸ごと請け負う「業務委託」の場合、地震、台風、豪雨など自然災害で水道関連施設が破損したり、老朽化した水道管が壊れれば、そのたびに莫大な施設復旧費が必要になるからだ。災害多発国日本ならではの参入障壁であった。
この障壁を除きたい外国資本の要求に基づき、民主党の菅内閣が2011年5月にPFI法の改正案を成立させた。PFI法とは「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」で、これによって水道施設は、自治体所有のままにして運営だけ民間委託する「コンセッション方式」が可能となった。しかしこの制度では、自治体があらかじめ定めた委託料の範囲内で部分的に水道事業を請け負う制度であるため、営利を目的とする民間企業にとってうまみの少ない制度であった。
さらに、水道民営化を促進するため、企業に運営権を売った自治体には、地方債を元本一括で繰り上げ返済するときに利息を最大で全額免除する特典までつけた。水道民営化を渋る自治体には高い利息をかぶせ、水道民営化を進める自治体には利息を免除するという、露骨な民営化推進策である。これはまさに国際ジャーナリスト堤未果がその著書『日本が売られる』(幻冬舎新書517)で指摘している通り、「日本で今、起きているとんでもないこと」の代表例である。
筆者が暮らしている那覇市で市民が日々飲んでいる水は沖縄県企業局の北谷浄水場から給水されている。北谷浄水場は那覇市、沖縄市、浦添市、宜野湾市、北谷町、中城村、北中城村の7市町村、沖縄県民の半分に当たる70万人の県民に飲料水を供給している。だが、その原水には発がん性物質PFOS(有機フッ素化合物)による深刻な水質汚染問題がある。問題を複雑にしているのは、汚染源は米軍嘉手納基地だと推定されるにもかかわらず、日米地位協定が壁となって企業局が原因調査のため立入り調査することが出来ないことである。
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