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宇宙ゴミが自己増殖する時代

流行のキューブサットも、エンジンを持たなければやっかいな危険物

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 ここ10年ほどで宇宙ゴミの問題が急速に深刻化している。既に1cm以上のサイズの宇宙ゴミだけでも50〜100万個あり、過去に打ち上げられた人工衛星の100倍近いほどだ。

宇宙ゴミの数や位置を示すイラスト。ゴミの大きさは強調されている(ESA)
 1cmサイズといっても、秒速(時速でなく)7~8km、つまりプロ野球の「豪速球」の200倍の速度で飛んでいるわけで、重さを勘案すれば300〜500倍ほどのエネルギーがある。しかも硬い金属片だから、衝突のダメージは極めて大きく、国際宇宙ステーション(ISS)の専用シールドをも突抜ける。10cmサイズの超小型衛星「キューブサット」だと大破するし、打ちどころが悪ければ100kgサイズの人工衛星だって故障して新たな宇宙ゴミとなりかねない。より大きな10cmサイズの宇宙ゴミともなるとダメージは1000倍で、衝突でほとんどの人工衛星が粉微塵になる。

 そんな「危険」な宇宙ゴミが50〜100万個だ。いかに宇宙が3次元的に広いとはいえ、衝突確率はゼロではなく、人工衛星の場所によっては年に10回以上も「衝突回避のための軌道変更」が必要となる。大型衛星の中には衝突対策を施している例もあるが、対策が最も完璧なISSですら年1度のペースで軌道を変えて衝突を避けているのである。

衝突で宇宙ゴミが大増殖

 なぜ人工衛星の数に比べて宇宙ゴミが圧倒的に多いのか? 多くの方はこれを不思議に思われるだろう。

欧州宇宙機構(ESA)がまとめた2019年1月現在の宇宙ゴミの状況
 宇宙ゴミの定義として最初にでてくるのが「運用をやめた古い人工衛星」と「打ち上げロケットの上段」だ。総質量でみると、運用停止衛星が全体の3分の2、ロケット上段が3分の1で、この両者で全体の98%を占める。しかし、実際に宇宙を漂っている数で見ると、氷山の一角に過ぎない。米国やロシアによる宇宙監視網で軌道がきちんと把握されている(=カタログに載っている)ような大型サイズのものですら、人工衛星から分裂した断片やロケット上段から分裂した断片の方が多く、カタログに載らないような小さなサイズ(10cmサイズ以下)は全て断片なのである。

 つまり宇宙ゴミの主な生成源は、人工衛星やロケット上段などの断片化なのだ。断片化の理由には色々あり、例えば天文衛星「ひとみ」の故障も断片化を引き起こしたが、特に重大なのが宇宙ゴミ同士や宇宙ゴミと人工衛星との衝突で、これだけで現在の宇宙ゴミの過半を説明する。例えば2007年に中国が行なった人工衛星破壊実験と、2009年の衛星同士(現役のイリジウム衛星と旧ソ連の古い衛星)の衝突の結果、宇宙監視網で見つかるぐらいの大きなサイズの宇宙ゴミが7割も増えた。

危険度は40J/gのエネルギーで大破するとして計算
 ばらまかれた宇宙ゴミは、「汚染」という言葉を使うのに相応しいぐらいに広く薄く広がった。いったん汚染されたら、そこの人工衛星は何度も回避する必要が生まれ、結果的に燃料を不必要に使って衛星寿命を短くする。それは衛星の多い高度1000km以下に限らない。昨年は高度36000kmの静止軌道が危うく「汚染」されるところだった。
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