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「公正な社会」への国際連帯を目指せ

クリーンエネルギーが経済的格差を是正する

西村六善 日本国際問題研究所客員研究員

 トランプ大統領の登場は国際関係に大きな衝撃を与えている。米国第一主義の下で保守的なポピュリズムが強大化し、グローバリズムが退潮し、同盟は危殆に瀕している。「米国はもうカモではない!」とは、2018年末にトランプ大統領がイラク駐留米軍に述べた言葉だ。同盟は共有する価値の守護などとは関係が無い……。そこまで行き着こうとしている。

 なぜ、こうなったのか? なぜ米国はこの大統領を選んだのか? 膨大な論議をあえて単純化すれば、米国社会が貧富の格差で分裂していたからだ。グローバリズムの勝者は輝かしい地位と膨大な富を手にした。その結果、上位1%の富裕層が所有する資産は過去30年間でほぼ300%増加した。しかし、中間所得層では40%しか増えず、最低所得層に至っては僅か20%だった

拡大大統領専用ヘリに乗り込むトランプ大統領=2019年2月、ワシントン

 敗者の窮状には惨憺たるものがある。以前なら高卒の労働者にもたくさんあった優良な職場が海外に移転し、わずかに残った就業の機会を最低賃金以下の条件で奪い合っている。働き場を失い、打ち捨てられた多くの白人は「自分たちは中産階級から脱落する」という恐怖感に苛まれた。誇りを失い、国から見捨てられ、疎外感が募り、薬物に走って多くの人々が死んだ。

 この状況に対して、トランプ氏が「米国を再び偉大にする」と連呼した。自動車や製鉄、製造業や石炭産業を取り戻すと叫んだ。経済の実態から考えれば全くあり得ない夢だったが、人々は彼を支持した。

 ただし大統領選でトランプ候補は、クリントン候補より総得票では290万票差で負けていた。勝利できたのは、米国の独特な投票人制度のせいだ。クリントン候補はミシガン、ペンシルバニア、ウイスコンシンの3州で負けていなければ当選できた。クリントン候補がこの3州で計77000票、つまり各州で25000票ずつ余計に得票していれば、トランプ大統領は実現していなかった。

トランプ大統領は格差是正に取り組んでいるのか?

 ではトランプ大統領は貧困白人層を救済しているのか? とてもそうは見えない。富裕層を利する大幅減税を実現したが、困窮層の再訓練や小規模ビジネスへの起業支援、大規模なインフラ整備事業などには手を付けていない。やり方も場当たり的で一貫性がない。例えば中国と関税戦争を開始する……。すると勿論中国は反撃するのでアメリカの農業は直ぐ痛手を受ける……。すると120憶ドルものカネを農民支援でポンとばらまく仕儀になる(昨年7月)。

 貧困者にとって大切な医療保険にも決して前向きでない。初めから共和党の「小さい政府至上主義」勢力に気を使っているから、貧困層への大規模な政策などはやる気がない。手を付けているのは人気取りに貢献することだけで、真に格差の是正に真剣に取り組んでいる気配はない。

 元来、国際貿易はどの国にも勝者と敗者を生む。「比較生産費説」とも呼ばれる国際分業の基礎理論だ。どの国も、「比較劣位」となった国内の敗者を救済して産業構造の転換に努めなければ、多国間分業は維持できない。本来なら自国の勝者に課税し、その資金で敗者を支えていくべきだ。社会的なセーフティーネットを提供し、職業再訓練や起業支援などを進め、同時に世界の将来を見据えて自国の成長産業に投資していくことで、グローバリズムからの利益を最大化し、コストを最小化できる。

 そのためには、政府はある程度の規模を持ち、コストがかかる社会政策も進めねばならない。「市場にまかせたら上手くいく」というものでもない。しかし米国の保守政権が進めた新自由主義思想は、この考えに真っ向から反対した。政府の役割や規模、規制や財政の赤字を徹底して縮小すべきだとする「小さい政府至上主義」の勢力が、オバマ大統領時代は議会の多数派だった。弱者救済とか格差是正は十分に行われなかったのだ。

温暖化対策が格差是正に一役買う

 もちろん、社会の不満は昔から渦巻いていた。2011年に始まる「ウォール街を占拠しろ」「We are the 99%」の運動はその象徴的なものだ。2018年11月の中間選挙で民主党が躍進したのも、トランプ大統領に対する反対票という意味合いもあるが、格差の是正を求める国民の願いの大きさでもある。

拡大「ウォール街を占拠せよ」との旗を掲げるデモ参加者たち=2012年5月、米ニューヨーク

 その動きを象徴する一人の新人議員の提案が米国で大きな議論を呼んでいる。今回の中間選挙で初当選した民主党のアレキサンドリア・オカシオ・コルテーズ下院議員だ。最富裕層への課税強化策を掲げ、年収100億ドル(1兆800億円)の最富裕層への所得税率を70%とすることを主張している。現行の最高税率は50万ドル以上(5400万円)に対して37%だ。 ・・・ログインして読む
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筆者

西村六善

西村六善(にしむら・むつよし) 日本国際問題研究所客員研究員

1940年札幌市生まれ。元外務省欧亜局長。99年の経済協力開発機構(OECD)大使時代より気候変動問題に関与、2005年気候変動担当大使、07年内閣官房参与(地球温暖化問題担当)などを歴任。一貫して国連気候変動交渉と地球環境問題に関係してきた。現在は日本国際問題研究所客員研究員。

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