迷走する原発政策に、社会の監視・評価能力を高めよう
2019年03月11日
あの日から8年。東京電力福島第一原子力発電所の事故は、日本の原子力政策にとって、大きな転換を促す事故であったはずだ。しかし、8年後の今も、原子力政策に大きな変化は見られず、福島原発事故で失った国民の信頼は回復する気配が見えない。いやそれどころか信頼はますます失墜している。
事故の直後、喪失した信頼感はおそらく時とともに回復するのではないか、との楽観的な考えもあったが、見事に裏切られた。原子力文化振興財団による世論調査によると、事故以前、「原子力専門家を信頼しない」人の割合は10%程度であったのが、事故直後は24.3%に急増、そして2017年にはさらに上昇して30.2%にまで達した。政府や原子力産業を信頼しない人もそれぞれ20.5%、22.0%と高い。
より衝撃的なのは、「政府や原子力産業を信頼する」人の割合が1.9%、1.2%と、なんと2%にも達しない低さになっている事実だ。「なぜ、原子力産業や政府を信頼しないのか」という問いに対し、「情報公開が不十分」(原子力産業68.3%、政府62.5%)、「安全対策が不十分」(原子力産業60.4%、政府54.1%)、「正直に話さない」(原子力産業59.8%、政府59.2%)と、一様に不信感を募らせている。
この結果、原子力発電を必要と考えている人の比率も、2010年には35.4%だったのが、事故直後には23.5%、2017年には17.9%にまで低下してしまった。「原子力発電を維持・または増加すべき」に賛成の比率は、2014年に10.1%に低下し、2017年には6.9%にまで減少してしまった。一方で、「原子力発電は即または徐々に廃止」に賛成の比率は、2013年に56.2%、2017年には79.6%にまで上昇したのである。不信感の増大はそのまま「脱原発」世論につながっているのが現状である。
このような状況にあって、原子力政策はまさに「迷走」を続けている。再稼働については、「避難計画」が安全審査の対象とならなかったため、政府は「規制基準を満たした原発は再稼働できる」とした。ところが原子力規制委員会は「規制基準を満たしたことだけでは安全確保したとは言えない」として、政府との間で判断の譲り合いが続いている。その真ん中にいるのが地方自治体の首長であり、地元の雇用や経済問題、避難計画に対する不安などが錯綜して意思決定が難しくなっている。さらに、再稼働の停止を求める訴訟が相次いでおり、司法面での不確実性も高くなっている。
2018年7月に発表された政府のエネルギー基本計画は、2014年と同様、「原子力への依存度をできる限り低下させる」とともに「原子力発電は重要なベースロード電源」と位置づけ、2030年時点で原子力発電の比率を20〜22%にするという目標を変えていない。さらに、事故直後は見直しの機運が高まった核燃料サイクル政策も、変化の兆しは見えない。高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の廃炉を決定した後も、政策を変えないどころか、「再処理等拠出金法」によって全量再処理路線の堅持を図るなど、合理性に欠ける政策が続いている。
はたして、この状況を打破するにはどうしたらよいのか。他国における原子力政策や核燃料サイクル政策の変更の過程をみると、大きく二つの社会的機能が有効に働いたことがわかる。第1が「市場メカニズム」の活用であり、第2が「監視・評価」機能の活用だ。
第1の面では、
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