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猫はいつから日本にいるの

移入期が1千年さかのぼる可能性、歴博も展示をリニューアル

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(西部報道センター)

 美術ファンにはお決まりの作品識別法のひとつだが、古い絵巻や浮世絵に「猫をつれた女性」が描かれていれば、それはほぼ間違いなく女三宮である。「源氏物語」に登場する重要人物だ。

浮世絵に描かれた女三宮と猫
 物語でもっとも長い巻の「若菜」で、猫はとても大切な役目を果たす。ある日、女三宮の飼い猫が部屋から飛び出し、はずみで御簾がまくれあがる。その瞬間、外にいた柏木に姿を見られ、二人は許されぬ逢瀬へと突き進む。女三宮と柏木の間に生まれた「不義の子」の薫はやがて物語後半の中心人物へと成長していく。

「平安時代から」が従来の定説

 この印象深いエピソードにも支えられて、「猫は平安時代から飼われていた」という理解は広く共有されてきた。源氏物語では、当時はまだ珍しかったはずの猫を飼っていたということが、光源氏の正妻という女三宮の高貴さの暗喩にもなっている。

 そしてこれまでの歴史学や考古学でも、飼い猫が日本に登場するのはこの平安時代ごろと見られてきた。文献での初出は、平安初期に書かれた最古の説話集「日本霊異記」とされ、死後に猫へと生まれ変わる人物が描かれる。実際に猫を飼っていた記述は、その少し後の宇多天皇の日記が最初という。

 絵画のなかに姿を見せるのも、やはり平安時代の「信貴山縁起絵巻」が初めてとされる。実際に骨が出土するのも、これまでは8〜10世紀が最古だった。

弥生時代に連れてこられたか

 ところが最近、この時代がいっきに千年もさかのぼりそうな発掘と分析が進んだ。国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)は3月19日、館内の「先史・古代」展示室を全面的にリニューアル。水田稲作が始まる弥生時代の高床倉庫に、2匹の猫の像を置いた。さながら「日本猫史」の大転換だ。

弥生時代の高床倉庫でくつろぐ猫の模型=国立歴史民俗博物館
 リニューアルの全体責任者で、この弥生時代を担当した藤尾慎一郎教授は言う。「平安時代に現れると考えられてきた日本のイエネコの起源が、この時代までさかのぼる可能性が出てきた」

 新発見は2008年以降だった。長崎県の離島、壱岐島のカラカミ遺跡から猫らしい骨が見つかり、奈良文化財研究所などで鑑定が進められた結果、ツシマヤマネコのような野生ではなく、人に飼われたイエネコらしいこと分かった。その後の2011年調査の成果も加わって、骨がイエネコであることや生息時期が紀元前2世紀ごろであることがほぼ確実になってきている。

猫の骨が見つかった長崎県・壱岐島のカラカミ遺跡
 カラカミ遺跡で見つかった骨は14点で、大人の猫1匹と子猫が2匹だという。同じ時期にあたる韓国南部の金海遺跡でも
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