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熊本地震の本震記録が捏造されていた

大阪大学が論文5本の研究不正を認定。17本は不正の疑いが強い

瀬川茂子 朝日新聞記者(科学医療部)

 2016年の熊本地震で観測された最も強い揺れの記録は「捏造」だった――。大阪大元准教授の論文44本に不正を疑う指摘があり、大学が調べたところ5本が「捏造・改ざん」、17本が「不正の疑いが強い」と結論づけられた。捏造認定されたデータの中には、熊本地震の本震記録が含まれていた。

熊本地震で多数の住宅が倒壊した益城町

 この記録は地震直後、たいへん注目された。被害が深刻だった益城町で観測され、非常に強い揺れを記録していたからだ。大地震はめったに起こらない。気象庁が、震度7(計測震度6.5以上)を観測した地震は、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震。

 熊本では震度7を観測する地震が4月14と16日に連発した。14日の地震後、元准教授は「余震」観測のために3地点に地震計を設置した。ところが、16日に再び大地震が発生したために本震を記録したと発表していた。 

 密な地震観測網があるとはいえ、揺れが最も強い場所に観測地点があるとは限らない。元准教授の臨時観測点は、益城町の中でも倒壊家屋が集中した町の南側だった。ほかの地区と被害の差ができた原因は何だったのか、揺れの記録は解明のいとぐちになる。臨時観測データが公開されるや多くの研究者に引用された。ちなみに元准教授による観測の計測震度は6.9。もともと地震計が設置されていた益城町役場の震度は6.7だった。

大阪大の発表資料。元准教授が臨時観測点を設置した場所

別の地点のデータにそっくり 

 ところが、17年9月、この記録に対する疑惑が浮かびあがる。防災科学技術研究所による益城町の観測記録と波形がそっくりという指摘だ。防災科研の観測点は益城町の北側で、地盤が比較的よい場所にある。違う場所で観測された地震波形が非常に似ていることは不自然だ。

 それから1年半。大阪大が3月15日に調査結果を公表して、5本の論文を「捏造・改ざん」と認定した。益城町の本震記録については「観測データは存在せず、他の地点で得られた地表面記録を基に捏造したもの」とした。

 元准教授は不正を認めないまま大学を辞職、その後亡くなったので、17本の論文については不正の疑いが強いが、これ以上は調査できないとして、判定留保とした。捏造・改ざんとした5本の論文の認定についても、状況証拠によらざるをえなかった。たとえば

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