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イエローベスト運動と温暖化問題(上)

燃料税(炭素税)値上げは、地球環境保護派にとって鬼門なのか

明日香壽川 東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授

 今年の1月末、フランスで燃料税(炭素税)の引き上げがきっかけとされるイエローベスト運動についてインタビューしたり、デモにくっついて行ったりした。

フランス西部の街アンジェであったイエローベストのデモに参加する人たち=2019年1月26日
拡大フランス西部の街アンジェであったイエローベストのデモに参加する人たち=2019年1月26日
 昨年11月に始まり、毎週末に市民が街頭に出て黄色いベスト(反射チョッキ)を着てデモをするのがイエローベスト運動だ。警察発表によると、1月26、27日はフランス全体で69000人(パリは4000人)、1月19、20日はフランス全体で84000人(パリは7000人)の参加者だった。その後、縮小傾向にあったものの、3月16日のデモでは、フランス内務省によると、フランス全土でおよそ32300人、首都パリでおよそ1万人の参加者があった。そのうちの一部が過激化し、パリの街の中心シャンゼリゼ通りでは、高級ファッション店や老舗カフェとして知られる「フーケ」のガラスが割られ、デモ鎮圧部隊とデモ隊とが衝突した。

 日本でも、メディア報道などを通して、何かフランス全体で死傷者が出るような騒動が起きているという漠とした認識はあるかと思う。実際に、数十人の死傷者が出ているのも事実だ。ただ、どのような人が参加しているのか、実際に何を訴えているか、燃料税の問題がどの程度中心的な問題なのか、どの程度暴力的なのか、マクロン大統領はどのように対応しているのか、などの細かい内容に関する報道は多くないかと思う。

きっかけは燃料税値上げ

 温室効果ガスの排出削減を目的の一つとする燃料税の値上げが、イエローベスト運動の始まるきっかけとはなったのは確かだ。

アンジェであったデモが暴徒化するのに備え、機動隊は放水の構えをしていた。拡大アンジェであったデモが暴徒化するのに備え、機動隊は放水の構えをしていた。
 もともと、フランスには環境税の一部として石油製品特別税(通称・燃料税)があり、税収総額は年間340億ユーロ(2018年)程度であった。2015年から、この石油製品特別税に炭素税が追加され、毎年少しずつ増えていくことになっていた。計画通りなら、2019年1月に、フランスで一般的に使われている軽油(ディーゼル)価格が1リットルあたり0.065ユーロ値上げされることになっていたところ、これに対する反発が起こり、結果的にフランス政府は値上げを見送った。

 ただし、運動のきっかけではあったものの、今は、燃料税は中心的な問題ではなく、他の様々な問題が噴出している。燃料税(炭素税)反対という言葉だけを聞くと、フランス市民が、マクロンが重視している温暖化対策に反対、あるいは温暖化問題は軽視していると連想するかもしれない。しかし、実際は、そんな単純な話ではないというのが見聞した結果だ。

 まず、マクロンにとって不運とも言える背景があった。 ・・・ログインして読む
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筆者

明日香壽川

明日香壽川(あすか・じゅせん) 東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授

1959年生まれ。東京大学工学系大学院(学術博士)、INSEAD(経営学修士)。電力中央研究所経済社会研究所研究員、京都大学経済研究所客員助教授などを経て現職。専門は環境エネルギー政策。著書に『脱「原発・温暖化」の経済学』(中央経済社、2018年)『クライメート・ジャスティス:温暖化と国際交渉の政治・経済・哲学』(日本評論社、2015年)、『地球温暖化:ほぼすべての質問に答えます!』(岩波書店、2009年)など。

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