粥川準二(かゆかわ・じゅんじ) 県立広島大学准教授(社会学)
1969年生まれ、愛知県出身。フリーランスのサイエンスライターや大学非常勤講師を経て、2019年4月より現職。著書『バイオ化する社会』『ゲノム編集と細胞政治の誕生』(ともに青土社)など。共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、山口剛ほか訳、早川書房)など。監修書『曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民』(アドリアナ・ペトリーナ著、森本麻衣子ほか訳、人文書院)。
7カ国の科学者ら18人が『ネイチャー』で提唱
今年3月19日、科学者を中心とする18人が共同で「遺伝性ゲノム編集のモラトリアム(一時停止)を採択せよ」という声明をまとめ、科学誌『ネイチャー』で公表した。
昨年11月、中国の研究者・賀建奎(が・けんけい、フー・ジェンクイ)らが世界で初めて、受精卵の段階でゲノムを編集された赤ちゃんを誕生させたことが発覚した。その直後に香港で開催された「第2回国際ヒトゲノム編集サミット」は賀の行為を厳しく非難しつつも、受精卵などを対象とし、結果が次世代にも遺伝する「遺伝性ゲノム編集(生殖細胞系ゲノム編集)」そのもののモラトリアムを求めることはなかった。筆者もこれを紹介した上で、サミットではモラトリアムを主張した科学者がいたことも述べた(「ゲノム編集ベビー「いずれ容認」への一歩か?」)。
今回のモラトリアムを求める声明においては、その科学者、米ブロード研究所でゲノム編集研究に取り組むフェン・チャンが署名している。18人の拠点は米国、ドイツ、中国など7カ国だ(日本は含まれていない)。
生命倫理学者のフランソワーズ・ベイリスがいるのは意外ではないが、ゲノム編集以前の「遺伝子組み換え技術」の開発に貢献し、安全性ガイドラインの作成を呼びかけたことでも有名なポール・バーグ、そしてゲノム編集技術の代表「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャス・ナイン)」の共同開発者エマニュエル・シャルパンティエも加わっている。難病患者の権利運動で有名なシャロン・テリーの名前もある。
われわれは、ヒトの生殖細胞系編集を臨床に応用することすべて、すなわち遺伝的に改変された子どもをつくるために、遺伝するDNA(精子、卵子、胚のDNA)を改変することについて、世界的なモラトリアム(一時停止)を呼びかける。
この文章から始まる声明は、2015年12月と2018年11月に開かれた「サミット」に対する批判を含んでいる。
第1回サミットはその声明で、遺伝性ゲノム編集で子どもを誕生させることについて、安全性と有効性という問題が解決され、社会的合意がない限り、どんな行為も「無責任」であると結論づけていた。
そして実際に、中国の研究者がゲノム編集ベビーを誕生させたと報告した。第1回サミットの声明は無視されたようだ。米国科学アカデミーの報告書を賀が誤読した可能性も指摘されている。第2回サミットの声明は賀を非難するものの、遺伝性ゲノム編集の臨床応用の実施そのものを禁じてはいない、ということは前述の通りだ。
これに対して批判がなかったわけではない。幹細胞やゲノム編集についてのブログなどで知られる科学者ポール・ノフラーは、
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