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「次世代に遺伝するゲノム編集にモラトリアムを」

7カ国の科学者ら18人が『ネイチャー』で提唱

粥川準二 叡啓大学准教授(社会学)

 今年3月19日、科学者を中心とする18人が共同で「遺伝性ゲノム編集のモラトリアム(一時停止)を採択せよ」という声明をまとめ、科学誌『ネイチャー』で公表した。

 昨年11月、中国の研究者・賀建奎(が・けんけい、フー・ジェンクイ)らが世界で初めて、受精卵の段階でゲノムを編集された赤ちゃんを誕生させたことが発覚した。その直後に香港で開催された「第2回国際ヒトゲノム編集サミット」は賀の行為を厳しく非難しつつも、受精卵などを対象とし、結果が次世代にも遺伝する「遺伝性ゲノム編集(生殖細胞系ゲノム編集)」そのもののモラトリアムを求めることはなかった。筆者もこれを紹介した上で、サミットではモラトリアムを主張した科学者がいたことも述べた(「ゲノム編集ベビー「いずれ容認」への一歩か?」)。

受精卵のゲノムを編集して双子を誕生させたと発表した賀建奎氏=2018年11月、益満雄一郎撮影
 今回のモラトリアムを求める声明においては、その科学者、米ブロード研究所でゲノム編集研究に取り組むフェン・チャンが署名している。18人の拠点は米国、ドイツ、中国など7カ国だ(日本は含まれていない)。

 生命倫理学者のフランソワーズ・ベイリスがいるのは意外ではないが、ゲノム編集以前の「遺伝子組み換え技術」の開発に貢献し、安全性ガイドラインの作成を呼びかけたことでも有名なポール・バーグ、そしてゲノム編集技術の代表「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャス・ナイン)」の共同開発者エマニュエル・シャルパンティエも加わっている。難病患者の権利運動で有名なシャロン・テリーの名前もある。

サミットへの批判から

 われわれは、ヒトの生殖細胞系編集を臨床に応用することすべて、すなわち遺伝的に改変された子どもをつくるために、遺伝するDNA(精子、卵子、胚のDNA)を改変することについて、世界的なモラトリアム(一時停止)を呼びかける。

 この文章から始まる声明は、2015年12月と2018年11月に開かれた「サミット」に対する批判を含んでいる。

 第1回サミットはその声明で、遺伝性ゲノム編集で子どもを誕生させることについて、安全性と有効性という問題が解決され、社会的合意がない限り、どんな行為も「無責任」であると結論づけていた。

英ナフィールド生命倫理評議会がまとめた報告書
http://nuffieldbioethics.org/
 ところが以前に伝えたように、サミットの主催団体でもある米国科学アカデミーは、2017年2月、厳しい条件付きではあるものの、遺伝性ゲノム編集で子どもを誕生させることを容認する報告書をまとめた。また2018年7月には、英国のシンクタンク、ナフィールド生命倫理評議会が、遺伝性ゲノム編集は「状況によっては倫理的に受け入れられる」と結論づけた報告書をまとめた。(筆者はその内容について詳しく解説すると予告していたのだが、実際にゲノム編集ベビーの誕生が報告されてしまい、現実が報告書の内容を追い抜いてしまった)。ただし、米国科学アカデミーもナフィールド生命倫理評議会も、かなり多くのハードルを設けていることは注記しておきたい。

 そして実際に、中国の研究者がゲノム編集ベビーを誕生させたと報告した。第1回サミットの声明は無視されたようだ。米国科学アカデミーの報告書を賀が誤読した可能性も指摘されている。第2回サミットの声明は賀を非難するものの、遺伝性ゲノム編集の臨床応用の実施そのものを禁じてはいない、ということは前述の通りだ。

 これに対して批判がなかったわけではない。幹細胞やゲノム編集についてのブログなどで知られる科学者ポール・ノフラーは、

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