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ガウディを測って40年、田中裕也さんの仰天人生

天王洲アイルの建築倉庫ミュージアムで初の大規模展覧会

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 スペイン・バルセロナの鬼才アントニオ・ガウディの建築作品を現場で測り、「実測図」を描き続けている田中裕也さんの仕事を知る展覧会「ガウディをはかる」が東京・天王洲アイルの建築倉庫ミュージアムで始まった。6月30日まで。サグラダ・ファミリアを始めとするガウディの作品は、模型とスケッチをもとに現場の職人とつくりあげたと言われ、図面はほとんど残っていない。ガウディに魅せられた田中さんは、ひたすら実測し、それを図面化してきた。40年間に描きためた実測図は「500枚ぐらい」(田中さん)で、うち70点を展示している。

 建築倉庫ミュージアムを運営する寺田倉庫が企画・主催した。画家の描く絵とは違う、実測によって初めて描ける精密な絵、それが「実測図」だ。その稠密さ、精緻さには圧倒される。それをこれだけ数多く見せる展覧会は初めてだ。

開会前日の内覧会は大賑わいだった=2019年3月26日、東京・天王洲アイルの建築倉庫ミュージアム
左側の壁面にあるのはグエル公園の実測図。この向かいには、再現した階段が設置されている。

 田中さんは1952年に北海道稚内市に生まれた。小学生ぐらいから建築家になりたいという思いを抱き、国士舘大学工学部建築学科に進学したが、学生時代は「カオスの状態」だったという。

 「何を教えられてもわからない。何を言われても難しすぎて理解ができない。あのころ、自分にとって一番の欠陥はイマジネーションが乏しいことだと思っていた。学生のころはみんなそうだっていう人もいるけど、まあ、実際、乏しいんですよ。まだ勉強不足だからね」

 ガウディの作品を初めて見たのは、20歳のとき。建築学会が主催した21日間の欧州旅行の途上だった。「カルチャーショックを受けた。何じゃ、こりゃ、と。あまりにもすごい作品で、これは建築というよりアートだ。これは俺には無理だ、もう建築をやめようと思った」

 大学卒業後は大阪の建築事務所で働いた。「でも、これは自分が望んでいる建築家の世界じゃないと見極めちゃって、3年でやめた。そのあと自転車で日本縦断旅行したんですよ。テントを持って50日間、6000キロ。沖縄まで行って稚内に帰りました。感動的なシーンがたくさんあってね、これ話し出すと長くなっちゃうね。とにかくこれで自分に自信ができた。やったことのないことでも、やろうと思えばできるんだというね」

田中裕也さん

 ガウディを追いかけたいと思うようになったのは、この日本旅行のあとだ。3年間働いて貯めたお金100万円を持ち、船でナホトカに渡ってシベリア鉄道でスペインに行った。

 「船の中で年配の日本人の兄弟と仲良くなって、船を下りたら別れたんだけど、何と10日後にバルセロナの終着駅でばったり出会ったんですよ。お互いびっくり。それじゃあ一緒に観光しましょうと歩いているときに、銀行に持っていくつもりでポケットに入れていた100万円をすられちゃった。ポケットのホックを留めていたから大丈夫だと思ってたんだね。馬鹿だね。ハハ。パッと周りを見たら走っていく奴がいたんで追いかけたんだけど、逃げられた。後で警察で聞いた話では、走っていく奴はお金は持っていないんだってね。そばにいる仲間に渡してから走るんだって」

 「当時の100万円って、

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