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人間が生み出した「家畜」という動物

東大博物館の展示に込められた約1万5000年の歴史

米山正寛 朝日新聞DO科学編集長

 家畜と聞いて、私たちは何をイメージするだろうか。畜産的に飼育されているウシやブタといった動物を思い浮かべる人が多いように思う。ただ、その定義は「繁殖を人為的にコントロールされている動物集団」だそうだ。これに当てはめると、イヌやネコのような愛玩動物、マウスやラットといった実験動物、ニワトリやアヒルみたいに肉や卵を利用する鳥類なども含まれる。人間と切り離せない家畜をテーマにした特別展示「家畜――愛で、育て、屠る」が東京大学総合研究博物館(東京都文京区本郷)で6月30日まで開かれている。展示監督を務める遠藤秀紀教授(遺体科学)を会場に訪ね、話を聞いてみた。

    ◇    ◇

~展示スペースのエントランスには、さまざまな哺乳類の頭骨が置いてある。でも、家畜には含まれない動物の骨もあるようだ。

拡大ゾウやカバ、サイ、キリンなどの頭骨は、家畜化に至らなかった野生動物の存在を示している=東大総合研究博物館
 ゾウを狩ったり、カバを狩ったり、サイを狩ったり、キリンを狩ったり、人間は狩猟をして生きてきた。そして1万5000年くらい前だろうか。何かを生け捕りにして柵のような中に入れて交配させ、自分たちの必要な性質を選び出すことを経験的にやり始めた。その過程をイメージしている。飼い続けるには暴れる個体よりおとなしい個体を選ぶだろうし、食料とするには成長が速いとか子だくさんだとか、様々に特徴のある個体を選んだだろう。意思の存在を問うのは難しいが、そのようにして野生動物の家畜化が進んだと思う。

~一番手前に、ブタとその祖先にあたるイノシシの頭骨が並べて置いてある。

 家畜化の分かりやすい一つの例が、野生のイノシシから大きさも形も変わったブタだと考えて、ここに置いた。ブタの家畜化は最近になって、ヨーロッパからインドネシアまで複数箇所で並行的に進んだと言われるようになった。いろんな場所で捕まえられて、多地域で家畜化された特筆すべき例だ。それだけ有用であり、人間に馴れやすかったのだろう。

拡大イノシシ(左)とブタの頭骨と並ぶ遠藤秀紀教授=東大総合研究博物館

~家畜化の始まりは興味深い。関連する研究成果は、報道でもよく話題になる。

 オオカミに由来するイヌは、議論が混迷していて結論的なことが全く言えない。それに比べると、ウシやヤギ、ヒツジはどれも約1万年前の中近東にいた原種に由来する単一起源だと分かってきている。ネコも単一の北アフリカ起源だ。ウマは中央アジアのモウコノウマが原種とされてきたが、モウコノウマを家畜化された集団の生き残りとし、ウマの原種はすでに絶滅しているという報告が出たため、まだ議論されている。いずれにしろ、こんなに研究が進んだのはここ10年くらい。考古学的な発掘が進んで骨が見つかるようになったことに加え、そのゲノムが解析できるようになったことが大きい。

~考えてみると、狩猟の対象ではあっても、家畜にならなかった動物は多い

 群れをつくって暮らす動物は、 ・・・ログインして読む
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筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) 朝日新聞DO科学編集長

朝日新聞科学医療部記者兼DO科学編集長。朝日新聞の科学記者を経て公益財団法人森林文化協会へ出向し、事務局長補佐兼「グリーン・パワー」編集長を務めた。2018年4月から現職。ナチュラリストを夢見ながら、とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せて取材活動を続けている。

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