メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

基礎科学にとっての防衛省「研究資金制度」の是非

天文学は安全保障とどう関わるべきか <上>

須藤靖  東京大学教授(宇宙物理学)

 2019年3月15日、日本天文学会は「天文学と安全保障との関わりについて」という声明:

・日本天文学会は、宇宙・天文に関する真理の探究を目的として設立されたものであり、人類の安全や平和を脅かすことにつながる研究や活動は行わない。
・日本天文学会は、科学に携わる者としての社会的責任を自覚し、天文学の研究教育・普及、さらには国際共同研究・交流などを通じて、人類の安全や平和に貢献する。

 を公表した。今回は、この声明策定過程を通じて私が学んだことを紹介してみたい。ただし、これらは、あくまで個人的な感想に過ぎず、日本天文学会(以下、天文学会と略す)の見解とは無関係であることを、予め強調しておく。

学会誌での連載や年会の特別セッション

 2017年3月24日、4月13日、日本学術会議が「軍事的安全保障研究について」と題する声明及び報告を発表した。これは、防衛装備庁が始めた「安全保障技術研究推進制度」に端を発したもので、「研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」ことが強調されている。

 国の防衛をミッションとする防衛装備庁の立場からすれば、「安全保障技術研究推進制度」は極めて合理的な提案だろう。基礎科学研究と軍事研究は、突き詰めて考えれば結局シームレスだ。したがって、資金不足に悩んでいる科学者に研究費を提供することで軍事研究にも役立つデュアルユース研究を推進できるのなら、「ウィンウィン」ではないか、というわけである。

 これに対して、私は「軍事研究が良い悪いと言ったイデオロギーの問題にとらわれることなく、基礎研究が軍事研究とどのような距離を取るべきかという科学者の判断が問われている」と主張してきた。国の防衛をどうすべきかとの観点ではなく、「安全保障技術研究推進制度」に関与することが基礎科学の振興にとってプラスなのかマイナスなのかという視点から、当事者となる科学者自身が議論し判断することが不可欠だと考える。

拡大日本天文学会の学会誌「天文月報」
 2017年6月の天文学会の代議員総会でその旨の発言をしたところ、多くの賛同が得られ、その後の代議員総会、理事会での議論を経て、日本天文学会誌である「天文月報」において2017年11月から、「シリーズ:安全保障と天文学」という連載が始まった。それを受けて、2018年3月、9月、2019年3月の天文学会年会では毎回、特別セッション「安全保障と天文学」を開催し、会員間で直接賛否両論の立場から議論と意見交換を行う機会をもった。

 2018年3月の特別セッションの最後で、柴田一成天文学会会長が「これから1年かけて、自分の任期中に天文学会として何らかの声明を出したい」と提案され、私は正直かなり驚いた。 ・・・ログインして読む
(残り:約1275文字/本文:約2448文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし)  東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に『ものの大きさ』、『解析力学・量子論』、『人生一般二相対論』(いずれも東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『三日月とクロワッサン』、『主役はダーク』『宇宙人の見る地球』(いずれも毎日新聞社)などがある。

須藤靖の記事

もっと見る