天文学は安全保障とどう関わるべきか <上>
2019年04月23日
2019年3月15日、日本天文学会は「天文学と安全保障との関わりについて」という声明:
・日本天文学会は、宇宙・天文に関する真理の探究を目的として設立されたものであり、人類の安全や平和を脅かすことにつながる研究や活動は行わない。
・日本天文学会は、科学に携わる者としての社会的責任を自覚し、天文学の研究教育・普及、さらには国際共同研究・交流などを通じて、人類の安全や平和に貢献する。
を公表した。今回は、この声明策定過程を通じて私が学んだことを紹介してみたい。ただし、これらは、あくまで個人的な感想に過ぎず、日本天文学会(以下、天文学会と略す)の見解とは無関係であることを、予め強調しておく。
2017年3月24日、4月13日、日本学術会議が「軍事的安全保障研究について」と題する声明及び報告を発表した。これは、防衛装備庁が始めた「安全保障技術研究推進制度」に端を発したもので、「研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」ことが強調されている。
国の防衛をミッションとする防衛装備庁の立場からすれば、「安全保障技術研究推進制度」は極めて合理的な提案だろう。基礎科学研究と軍事研究は、突き詰めて考えれば結局シームレスだ。したがって、資金不足に悩んでいる科学者に研究費を提供することで軍事研究にも役立つデュアルユース研究を推進できるのなら、「ウィンウィン」ではないか、というわけである。
これに対して、私は「軍事研究が良い悪いと言ったイデオロギーの問題にとらわれることなく、基礎研究が軍事研究とどのような距離を取るべきかという科学者の判断が問われている」と主張してきた。国の防衛をどうすべきかとの観点ではなく、「安全保障技術研究推進制度」に関与することが基礎科学の振興にとってプラスなのかマイナスなのかという視点から、当事者となる科学者自身が議論し判断することが不可欠だと考える。
2018年3月の特別セッションの最後で、柴田一成天文学会会長が「これから1年かけて、自分の任期中に天文学会として何らかの声明を出したい」と提案され、私は正直かなり驚いた。
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