がん治療薬「オプジーボ」成功のかげで深まっていた対立
2019年04月19日
京都大の本庶佑(ほんじょたすく)特別教授が、4月10日、がん治療薬「オプジーボ」の特許をめぐり、オプジーボを販売する小野薬品と、対価の引き上げを求めて交渉していることについて、報道陣に説明する機会をつくった。
広く注目されるようになったきっかけは昨年のノーベル賞受賞決定後の会見だった。本庶さんは小野薬品に対してこう述べた。
「この研究に関して小野薬品は貢献していない。それははっきりしている。特許に関してライセンスを受けているわけですから、十分なリターンを大学に入れていただきたい」。大勢の記者の前で、名指しで不満を述べたのである。「さすが、よくぞ言ってくれた」と賛同する研究者、「そこまで言うのはちょっと」と冷ややかにみる人……。反応はさまざまだった。
今回の説明でどこまで契約の内容を明らかにするのか――。興味津々の報道陣の前に本庶さんは弁護士を伴って現れた。弁護士がざっと説明した経緯によると、本庶さんらが1992年に発表した遺伝子「PD-1」をもとに小野薬品はオプジーボを開発し、その販売や他社からのロイヤルティー(権利使用料)で莫大な収入を得ている。それは、①小野薬品の直接の売上、②ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)社からのロイヤルティー収入、③メルク社との特許訴訟で和解したことによる一時金などに分けられる。
①と②について、2006年に本庶さんは小野薬品と特許の対価について契約を結んだ。ロイヤルティーの料率は0.75%を基本として、①は小野薬品が開発・製造や販売のコストをかけ苦労して売っているものなので「減額」、②は「上乗せ」するというものだ。
世界市場は日本よりケタ違いに大きいため、②と③の料率が重要な意味をもつ。しかし、②は販売額でなく収入額をもとにした料率であるため、低く抑えられていること、③については契約がなかったが、メルク社との訴訟では本庶さんは全力で小野薬品をサポートしたことなどが具体的に説明された。
料率の根拠についての小野薬品の説明は不正確だった、1%以下の料率は「常識的なレベルではない」と弁護士は熱弁をふるった。対価の引き上げを求める交渉過程でもいったん出てきた提案が撤回されるなど、不満に感じた点を明かした。
当初の契約に基づくと、オプジーボの発売から4年で本庶さんが受け取る額は合計約26億円になるが、料率が低すぎるとして修正を求めて交渉中のため、受け取らず、法務局に供託されている。弁護士がこれくらいでもおかしくないと考える料率で仮に計算すれば、830億円になるという数字も示した。
次々と出てくる数字を聞いて、売上総額が大きいということは、こういうことなのかと実感した。元の額が大きいと、料率の違いが、巨額の差になる。本庶さんは、基礎研究の成果がさらなる成果をうんだ場合は、正当な対価を受ける権利があるとして、こう述べた。「公正な産学連携モデルをつくらないと、サイエンスがだめになる。研究者が
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