「国際化が重要」「論文の数を増やせ」「アジアは不利」は、みんな間違い
2019年04月26日
世界中の大学を順位づけした「大学ランキング」は、大学関係者にとって止みがたい関心事だ。とりわけ近年は日本全体の低迷ぶりが、しばしば注目される。「ランキングに踊らされるなんて、愚かなこと」と批判するのは簡単だが、現実として多くの大学がこの順位に向き合わざるをえない状況もある。
では、どうすればランキングは上がるのか。よく聞く意見として、「国際化を進めよ」「論文数を増やせ」といった方法論や、「そもそもアジアは不利だ」といった批判がある。ところが、この三つはすべて間違いなのだ。
このほど開かれた研究者らのセミナーでこれらの誤解について解説され、目からうろこが落ちる思いがした。内容を紹介したい。
大学ランキングを発表する組織はいくつもあるが、とくに注目度が高い「THE」「QS」「ARWU」が御三家とされている。それぞれ独自の指標や計算方法によって大学を順位づけしている。
政府は2013年、「日本再興戦略」のなかで、大学の潜在力を引き出すためとして「世界ランキングのトップ100 に10 校以上を入れる」と目標に掲げた。さらにこれを踏まえ、文部科学省の「国立大学改革プラン」でも同じように大学ランキングを目標化している。いまやランキングは無視できないどころか、国家的な課題だ。
ところが、長らくアジアの首座を守ってきた東京大が3年前に陥落し、いまも中国やシンガポールに抜かれたまま。昨年は2番手クラスの大阪大や東北大がそろって順位を下げるなど、低迷ぶりが話題になっている。
では、こうした大学ランキングへの対処方法は、正しく理解されているのか。たとえば「ランキングを上げるために、国際化を進めるべきだ」とは、代表的な意見の一つだろう。しかし東京工業大の調麻佐志教授はこう指摘する。「大学にとって国際化は必要だが、ランキングに対する寄与は非常に小さい」
調教授によると、THEがランキングを作るときの国際化の指標としては、①留学生の比率②外国人教員の比率③国際共著論文、の三つがある。順位は合計100点のスコアで決まるが、これら三つの寄与度はそれぞれ2.5点分でしかない。
「現実的に考えれば、1割も増やすなんて恐ろしいほど厳しい目標だが……」と調教授。しかし推計したところ、スコアは0.3点しか増えず、順位も125位から123位へと、わずか2ランク上がるだけだという。「大学ランキングのために国際化をするなど、本末転倒だ」と調教授は話す。
「日本の大学は、論文数が少ない」という意見も根強い。しかし自然科学研究機構の小泉周特任教授の言葉はなかなか辛辣だ。「数ばかりを求めて、学部ごとや教員1人当たりで『論文○○本』と定めるなど、本当に阿呆だなあと思う」
論文は数の問題ではない。小泉教授は一例として、東京大とシンガポール国立大を比較する。シンガポール国立大は現在、東京大を抜いてアジアで首位だ。しかし年間の論文数は、東京大の5万4827本に対して、シンガポール国立大は3万7628本。東京大のほうが圧倒的に論文数は多い。
「重要なのは、数でなく質」と小泉教授。具体的には、論文の「被引用数」がポイントになる。つまり自分たちの論文が、ほかの論文からどれだけ重要だと見られ、引用されているかの数こそ、ランキングに寄与するという。実際のスコア計算では、研究分野の違いによる有利・不利が生じないように、「FWCI値」という指数化された値が用いられる。
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