メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

8Kのすごさをミクロ映画で実感した

科学技術映像祭で最高賞に輝いた「からだの中の宇宙」

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 4Kテレビさえ買っていないのに、8Kが登場したと言われてもなあ、と思っている方は多いのではないだろうか。少なくとも私はそうだった。技術者はどんどん先に進みたがるけれど、モノには限度というものがあるだろう。普通のテレビが約200万画素、4Kは約800万画素で、その4倍、約3200万画素が8Kである。そんな高精細な画像が果たして必要なのか、といぶかしみ、「別に見たくない」とまで思ってしまっていた。

 だが、1本の映画でたちまち宗旨替えをした。8Kはすごい!

 その映画が、ミクロ映画の老舗、株式会社ヨネ・プロダクションが製作した「からだの中の宇宙-超高精細映像が解き明かす」である。第60回科学技術映像祭で最高賞である内閣総理大臣賞を受けた。

 ニワトリが受精卵から発生を始める様子を顕微鏡下で追い、8K映像でとらえた32分間の作品だ。細胞が分裂して形が変化し少しずつ臓器ができていく。心臓ができて拍動を始め、血管網を流れる血が鮮明に見える。胃や腎臓の細胞も映し出される。生命はこうして誕生するのかと誰しもが引き込まれてしまう。そして、そのクリアさに誰しもが驚かされる。

 細胞や臓器を生きたままの状態で撮影するテクニックを持つヨネ・プロダクションだからこそ撮れた作品である。製作総指揮の淺香時夫さんは、1925年生まれの93歳。東邦大学医学部解剖学研究室の助手だった1957年に、森於菟教授(森鷗外の長男)とともに「鶏卵の卵殻外発生」という論文を発表した。そのころ、顕微鏡撮影に取り組んでいたのが2005年に100歳で亡くなった小林米作さんで、小林さんが1958年に撮った「ミクロの世界-結核菌を追って」はキネマ旬報短編映画ベストテン第1位、教育映画祭最高賞並びにNHK賞、パドヴァ大学科学教育映画大会グランプリ、ローマ大学科学映画祭一等金盾賞などなど、国内外の賞を多数受けた。

第60回科学技術映像祭授賞式のトークショーで語る淺香時夫さん(左)=2019年4月19日、東京・科学技術館

 その小林さんから「映画会社に生物試料製作の研究室を作りたい」と誘われ、映画の世界に入ったのが淺香さんだ。「当時、学生運動が盛んになり、大学では研究ができなくなっていたんです」と、科学技術映像祭授賞式で催したトークショーで語った。

 1963年には、

・・・ログインして読む
(残り:約966文字/本文:約1883文字)