鍛治信太郎(かじ・のぶたろう) 朝日新聞お客様オフィス幹事
東京都千代田区麹町生まれ。朝日新聞の科学記者として、航空機事故とヒューマンエラーに関する連載、ステルス戦闘機の仕組みや航空機の省エネ化に関する記事などを担当。名古屋空港中華航空機墜落事故の最終報告書発表や福岡空港ガルーダ航空機離陸事故などを取材した。宇宙論、HIVやゲノム編集などの薬学、生命科学にも興味がある。2019年1月から現職。工学修士。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
ボーイング737連続墜落事故の背景にあるもの <上>
米ボーイングの最新鋭ジェット旅客機737MAXが昨年10月にインドネシアで、今年3月にエチオピアでと相次いで墜落した。最大の売れ筋機の減産と出荷停止で同社の収益は悪化。米国のGDP(国内総生産)を押し下げるのではないかと予想される騒ぎになっている。
事故原因として、MAXシリーズで導入された失速を防止する機構MCAS(操縦特性強化システム)に関連した不具合が指摘されている。
航空機は機首が上を向きすぎると、翼の周りの空気がはがれ、失速する。翼に受ける空気の流れで生じる揚力で航空機は宙に浮いていられるのだ。流れが止まれば落ちる。失速を防ぐには、機首を下げるのと同時にエンジンのパワーを上げて推力を増す。空気の流れが戻れば墜落を免れる。MCASは角度の上がりすぎをセンサーが検知すると、自動的にこの回復操作をする失速防止システムだ。
様々なメディアで報道されている2件の事故のストーリーはこうだ。離陸後の上昇中に、センサーに狂いが生じ、角度が上がりすぎという間違った情報に基づいてMCASが作動。MCASの指示で機首を下げようとするコンピューターの自動制御(オートパイロット)と、機首を上げてそのまま上昇しようとするパイロットが「けんか」になり、墜落した。
事故調査の中間報告などによると、MCASの機首下げ指令は20回以上も出ていたそうだ。詳細は最終報告書まで待たなければならないが、大筋はほぼ間違いないだろう。だが、この事故原因の背景にまで踏み込んだ報道はほとんどない。
事故を誘発するようなシステムが導入されたのはなぜか。端的に言えば、「経済性を追求するために生じた安全上の問題を自動制御のソフトで補おうとした」。そして、それが失敗だった。
では、なぜ、そんな無理をしたのか。ライバルに水をあけられて焦ったというのがもっともありそうな理由だ。
737MAXの売りは、従来機の737NGに比べて省エネルギーであること。省エネを実現する手段の一つとして、燃費のいい新型エンジンを使った。ところが、このエンジンは従来機で使っていたエンジンより口径が大きい。そのまま付けると、エンジンと地面の間に余裕がない。そこで、取り付け位置を前方寄りの高めにずらした。その結果、重心の位置がずれ、機体のバランスが崩れて、機首が上向きに上がりやすくなった。そこで、MCASでその欠点を補おうとしたのだ。
実はこれとよく似た事例が過去にある。