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人間と機械「どちらを優先?」の正解とは

ボーイング737「連続墜落事故」の背景にあるもの <下>

鍛治信太郎 朝日新聞お客様オフィス幹事

 前回、ボーイングの最新鋭ジェット旅客機737MAXの墜落が相次いだ背景として、経済性の追求によって生じた安全上の問題をコンピューター任せにすることの落とし穴を論じた。今回は、人間優先か、コンピューター優先か、という別な観点からこの事故の意味を考えてみたい。

拡大エチオピア航空機事故の犠牲者追悼式で悲しむ女性=エチオピアの首都アディスアベバ、中野智明氏撮影
 737MAXの事故原因は、新たに採用された失速防止機構MCAS(操縦特性強化システム)の不具合で間違いなさそうだ。離陸後の上昇中、機首が上がりすぎていると誤認識したMCASによってコンピューターの自動制御(オートパイロット)が機首を下げて降下しようとし、機首を上げて離陸を続けよとするパイロットと「けんか」になった。事故機の記録ではこの「やられたらやり返す」上げ下げの応酬が20回以上も繰り返されていたという。

 だが、この通りだとすると、疑問が生じる。システムに欠陥があっても、自動制御のコンピューターがパイロットの言うことを聞いて逆らわなければ、そもそもこんな事故は起きない。

 そして、これまでボーイングの設計思想は人間(パイロット)優先だと喧伝されてきた。これに対し、欧州のエアバスはコンピューター優先の設計思想だといわれる。その際立つ例として有名になったのが1994年、名古屋空港に着陸しようとした中華航空のエアバス機A300-600Rの墜落だ。事故に関しては、日本に多いボーイングびいきのパイロット(特にJAL)から「ボーイングは人間優先だが、エアバスはコンピューター優先だから危ない」という非難を何度か耳にした。

自動操縦の解除方法に違い

 この中華航空機事故は、人と機械のいさかいという点で737MAXの事故とよく似ている。中華航空機が着陸する際、なぜか着陸やり直し(ゴーアラウンド)のスイッチが入ってしまい、着陸をやめて急上昇しようとする自動制御のコンピューターと、操縦桿を押し込んで機首を下げ、着陸を続けようとするパイロットが「けんか」になった。最終的にパイロットがあきらめたが、急に上を向いたため、失速して墜落してしまった。

 当時、もしこれがボーイング機であれば事故は起きないとされた。ボーイング機だと、このような場合、パイロットの操縦桿操作によってコンピューターの自動制御はOFFになり、機体の制御はパイロットの支配下になる。ボーイング機のように操縦桿の操作によって自動制御の命令が無効化、上書きされることをオーバーライドという。

拡大中華航空機が着陸に失敗して墜落、炎上した事故現場=1994年4月26日
 エアバス機ではオーバーライドはできないが、単にスイッチを切ればいいだけの話だ。コンピューターはゴーアラウンドのスイッチで着陸やり直しという命令を受けたからそれをひたすら果たそうとしただけである。

 中華航空のパイロットは、乗務する機種がボーイング機からエアバス機に変わってから日が浅かった。オーバーライドできるボーイング機の操作に慣れ親しんでいたため、ついその癖でエアバス機もオーバーライドできると錯覚してしまったのではないかという見方もある。右ハンドルの国産車に慣れているドライバーが左ハンドルの外車に乗ると、ウインカーを出そうとして、ついワイパーを動かしてしまうような感じだ。

ボーイングは修正を発表

 737MAXの事故でも、パイロットがMCASのOFF操作の仕方を知らなかったのではないかという報道がある。 ・・・ログインして読む
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筆者

鍛治信太郎

鍛治信太郎(かじ・のぶたろう) 朝日新聞お客様オフィス幹事

東京都千代田区麹町生まれ。朝日新聞の科学記者として、航空機事故とヒューマンエラーに関する連載、ステルス戦闘機の仕組みや航空機の省エネ化に関する記事などを担当。名古屋空港中華航空機墜落事故の最終報告書発表や福岡空港ガルーダ航空機離陸事故などを取材した。宇宙論、HIVやゲノム編集などの薬学、生命科学にも興味がある。2019年1月から現職。工学修士。