ボーイング737「連続墜落事故」の背景にあるもの <下>
2019年05月08日
前回、ボーイングの最新鋭ジェット旅客機737MAXの墜落が相次いだ背景として、経済性の追求によって生じた安全上の問題をコンピューター任せにすることの落とし穴を論じた。今回は、人間優先か、コンピューター優先か、という別な観点からこの事故の意味を考えてみたい。
だが、この通りだとすると、疑問が生じる。システムに欠陥があっても、自動制御のコンピューターがパイロットの言うことを聞いて逆らわなければ、そもそもこんな事故は起きない。
そして、これまでボーイングの設計思想は人間(パイロット)優先だと喧伝されてきた。これに対し、欧州のエアバスはコンピューター優先の設計思想だといわれる。その際立つ例として有名になったのが1994年、名古屋空港に着陸しようとした中華航空のエアバス機A300-600Rの墜落だ。事故に関しては、日本に多いボーイングびいきのパイロット(特にJAL)から「ボーイングは人間優先だが、エアバスはコンピューター優先だから危ない」という非難を何度か耳にした。
この中華航空機事故は、人と機械のいさかいという点で737MAXの事故とよく似ている。中華航空機が着陸する際、なぜか着陸やり直し(ゴーアラウンド)のスイッチが入ってしまい、着陸をやめて急上昇しようとする自動制御のコンピューターと、操縦桿を押し込んで機首を下げ、着陸を続けようとするパイロットが「けんか」になった。最終的にパイロットがあきらめたが、急に上を向いたため、失速して墜落してしまった。
当時、もしこれがボーイング機であれば事故は起きないとされた。ボーイング機だと、このような場合、パイロットの操縦桿操作によってコンピューターの自動制御はOFFになり、機体の制御はパイロットの支配下になる。ボーイング機のように操縦桿の操作によって自動制御の命令が無効化、上書きされることをオーバーライドという。
中華航空のパイロットは、乗務する機種がボーイング機からエアバス機に変わってから日が浅かった。オーバーライドできるボーイング機の操作に慣れ親しんでいたため、ついその癖でエアバス機もオーバーライドできると錯覚してしまったのではないかという見方もある。右ハンドルの国産車に慣れているドライバーが左ハンドルの外車に乗ると、ウインカーを出そうとして、ついワイパーを動かしてしまうような感じだ。
737MAXの事故でも、パイロットがMCASのOFF操作の仕方を知らなかったのではないかという報道がある。
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