楽をするためでなく、安全のための技術開発を
2019年05月15日
池袋の暴走事故を契機に、高齢運転手の誤操作による重大事故が社会問題になっている。実際、高齢者ほど重大事故の比率が高く(図1)、その主な原因は誤操作だ(図2)。これらの不本意な事故を減らすことが、高齢化がさらに進む社会で重要であることは間違いない。
とはいえ、高齢の運転者が増加しているにもかかわらず、重大事故の件数が横ばいであることはあまり知られていない。人口当たりの高齢運転者の事故率が年々大きく減少しているからだ(図3)。車で大量の買い物をして大型冷蔵庫に保存する現代の生活スタイルや、財政上の制約などで高齢者用の福祉タクシーが充実しにくい現状も考えれば、高齢者という理由だけで車の運転を止めさせるのは不合理だ。
安全運転サポート車の究極は、運転者が全く何もしない完全自動運転だろう。だから、高齢者による交通事故が今後も大きな社会問題であり続ければ、今まで自動運転に懐疑的だった世論が、前向きに変わることだってありうる。機械よりも人間の運転のほうが安心できるのは、その人間の判断や動作が正常に機能している場合に限られるからだ。
しかし、完全な自動運転を達成するための道のりは非常に遠いし、到達の道筋もまだ定まっていない。むしろ現実に導入されつつある自動運転技術は、高齢者の事故防止とは全く無関係の方向に進みかねないのである。
宇宙ミッションでは重要な場面は人間が管理する。例えば危険な宇宙ゴミとの衝突回避は、回避することによって新たな衝突が生まれる可能性なども極めて低いので、自動操縦に判断させても良さそうだが、それでも地上で人間が計算して操作する。一方、他の惑星に向かうミッションの場合は、地球からの管制費用が膨大なことや宇宙ゴミなどの危険がほとんどないことから、自動操縦の実用化が進んでいる。
自動車メーカーは売れるものを作りたいから、よほど「安全重視」の世論が高まらない限りは、楽をするための自動運転が優先されるだろう。それは、安全運転のサポート技術が後回しになることを意味する。
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