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高齢者の人身事故を自動運転で減らせるか?

楽をするためでなく、安全のための技術開発を

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 池袋の暴走事故を契機に、高齢運転手の誤操作による重大事故が社会問題になっている。実際、高齢者ほど重大事故の比率が高く(図1)、その主な原因は誤操作だ(図2)。これらの不本意な事故を減らすことが、高齢化がさらに進む社会で重要であることは間違いない。

拡大【図1】75歳以上の死亡事故は多い。※2017年12月末の運転免許数の事故件数に基づく
拡大【図2】75歳以上は、ブレーキとアクセルの踏み間違いなど不適切な操作での事故が多い

 とはいえ、高齢の運転者が増加しているにもかかわらず、重大事故の件数が横ばいであることはあまり知られていない。人口当たりの高齢運転者の事故率が年々大きく減少しているからだ(図3)。車で大量の買い物をして大型冷蔵庫に保存する現代の生活スタイルや、財政上の制約などで高齢者用の福祉タクシーが充実しにくい現状も考えれば、高齢者という理由だけで車の運転を止めさせるのは不合理だ。

拡大【図3】免許人口当たりの死亡事故件数は減少傾向にある
 となれば、車の技術やインフラの面から、誤操作による事故を起こしにくくする対策が望まれるわけで、その実用例の一つが安全運転サポート車だ。警察庁の資料でも普及の必要性が言及されている。実際、高齢者の事故率の急速な改善は、近年の安全運転サポート車の充実抜きには実現できなかった。

自動運転と事故防止は別物だ

 安全運転サポート車の究極は、運転者が全く何もしない完全自動運転だろう。だから、高齢者による交通事故が今後も大きな社会問題であり続ければ、今まで自動運転に懐疑的だった世論が、前向きに変わることだってありうる。機械よりも人間の運転のほうが安心できるのは、その人間の判断や動作が正常に機能している場合に限られるからだ。

 しかし、完全な自動運転を達成するための道のりは非常に遠いし、到達の道筋もまだ定まっていない。むしろ現実に導入されつつある自動運転技術は、高齢者の事故防止とは全く無関係の方向に進みかねないのである。

拡大東京・池袋の事故現場=2019年4月19日、西岡臣撮影
 私がこの危惧を抱くのは、今の自動運転の発展の方向が、「安全な運転」よりも「楽な運転」を目指しているように見えるからだ。そもそも安全と自動とは、互いに独立であるどころか場合によっては対立することの多い概念で、それぞれの軸で発展させるべき技術だ。私は自動車技術に関しては門外漢だが、少なくとも宇宙やプログラミングに関してはそうだ。

 宇宙ミッションでは重要な場面は人間が管理する。例えば危険な宇宙ゴミとの衝突回避は、回避することによって新たな衝突が生まれる可能性なども極めて低いので、自動操縦に判断させても良さそうだが、それでも地上で人間が計算して操作する。一方、他の惑星に向かうミッションの場合は、地球からの管制費用が膨大なことや宇宙ゴミなどの危険がほとんどないことから、自動操縦の実用化が進んでいる。

 自動車メーカーは売れるものを作りたいから、よほど「安全重視」の世論が高まらない限りは、楽をするための自動運転が優先されるだろう。それは、安全運転のサポート技術が後回しになることを意味する。 ・・・ログインして読む
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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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