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イラン核合意の行方 最悪シナリオは防げるか

トランプ大統領との「瀬戸際外交」合戦に、日本と欧州は団結して対抗せよ

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 2019年5月8日、イランのハッサン・ロウハニ大統領が「共同包括作業計画」(JCPOA)の履行を一部停止したと発表した。JCPOAは通称「イラン核合意」と呼ばれ、イランで2002年にウラン濃縮施設が見つかったことを契機に、イランの原子力平和利用の権利を認めつつそれが核開発につながらないようにするため、米英など6カ国や欧州連合(EU)との間で15年に結ばれた約束だ。

 ロウハニ大統領の発表は、米国が1年前にこの合意から離脱し、経済制裁を復活させたことに対する対抗措置とみられる。これまでは他の合意国が米国に追随せず、イランも合意を順守してきたが、その我慢もいよいよ限界に来たのかもしれない。米国は同日、新たな経済制裁を発表するなど、対立は深刻化している。

 果たして、今後イランの核合意は崩壊してしまうのか。米国とイランの対立がもたらす最悪のシナリオは防げるのだろうか。

イランの瀬戸際外交:NPT脱退も視野

 これまでイランが合意を順守してきたことは、国際原子力機関(IAEA)でも検証済みだ。今回のイラン政府の声明は、合意違反にはなるが核リスクはほとんど高まらないという、ギリギリの線を狙ったものといえる。声明では、①余剰の濃縮ウランと重水の輸出をやめて国内に備蓄する、②その後60日間の猶予後に合意で定められた濃縮度を超えるウラン濃縮を実施して重水炉開発を再開する、としている。だが60日の猶予期間を経ても、すぐに核兵器が作れるわけではない。

拡大核合意履行の一部停止を表明するハッサン・ロハニ大統領=2019年5月8日、イラン大統領府提供
 イラン政府も「JCPOAから離脱する意図はない」と述べ、「これは対立を深めるためではなく、交渉を進めるための政策だ」と表明している。専門家は「イランが本気でJCPOAから脱退するとは現時点では考えににくい」(ユーラシア・グループ会長、クリフ・カプチャン氏)との見方だ(ニューヨーク・タイムズ、2019年5月6日)。

 しかし、イランの声明は明らかに核合意に違反し、「核兵器の製造能力に近づく」ことは間違いない。これまでイラン核合意を支持してきた他の欧州各国にも厳しい選択をせまるものだ。欧州各国は核合意を守るべく、米国の経済制裁を潜り抜けてイランに融資や支払いをする手段を模索してきた。しかし、その枠組みづくりは成功しておらず、時間切れとなってしまった。現時点では、制裁を選ぶか、イランとの合意を守るか、という難しいジレンマに直面しており、EUメンバー諸国の間でも意見が分かれているのが現状だ。この状況を打破する妙案は見えていない。 ・・・ログインして読む
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筆者

鈴木達治郎

鈴木達治郎(すずき・たつじろう) 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授。1951年生まれ。75年東京大学工学部原子力工学科卒。78年マサチューセッツ工科大学プログラム修士修了。工学博士(東京大学)。マサチューセッツ工科大エネルギー環境政策研究センター、同国際問題研究センター、電力中央研究所研究参事、東京大学公共政策大学院客員教授などを経て、2010年1月より2014年3月まで内閣府原子力委員会委員長代理を務め、2014年4月より現職。またパグウォッシュ会議評議員を2007~09年に続き、2014年4月より再び務めている。

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