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人間はもう超えた! ファッション向けAIの進化

モードの世界は「創造」も「分析」も、すでに人工知能の得意分野だ

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(科学医療部)

 東京大学から発表される学術成果が最近、ちょっと変わってきた。理工学の分野で「ファッション」にかかわる研究が目立つのだ。東京大広報部から送られたプレスリリースは、例えばこんな感じ。

 1月「衣料品・服飾品のショッピング支援モバイルアプリ」(工学部)
 2月「最新ファッションのトレンド分析をAIが支援」(生産技術研究所)
 3月「人間と人工知能の共存を目指したファッションショー」(同)

 これらの研究が浮かび上がらせるのは、「ファッションとはそもそも何なのか」という古くて新しい問題だ。いったい流行とは、だれの手で、どのように生まれるのか。そして、どう変わりつつあるのか。「好きな服」「嫌いな服」という人間的なはずの営みが、最先端のテクノロジーによって揺らぎ、すでに乗り越えられている現状が見えてくる。

買い物とは「買うという行為」の快楽

 1月に発表された「ショッピング支援モバイルアプリ」は、目が不自由な人の買い物を助けるツールだ。人間が使いやすい機器を研究している大学院工学系研究科の矢谷浩司准教授(電気系工学)の研究室が開発した。衣料品店に並んでいる商品の値段や色柄を、音声や振動で伝えてくれる。

拡大アプリ開発を手がけた東京大の嶋田紅緒さん(右)と、使い勝手を確かめる女性=2019年1月、杉本崇撮影
 もし商品を見つける「効率のよさ」だけを考えれば、希望する服や靴のサイズや色をパソコンに入力し、自動的に探しだすほうが簡便だろう。しかし矢谷研究室が開発した方法は、この逆だった。あえて手間をかけ、人間が商品を発見するプロセスを重視している。

 都内のデパートで公開実験があった。売り場でアプリを起動すると、音声が流れる。「シンプルなパンプスが多いエリアです」「遊び心のあるデザインの靴が多いエリアです」。いま目の前にどんな商品が並んでいるのか、声が案内してくれる。さらに商品に近づいて靴を手に取ると、こう説明してくれた。「ライトグレー色の婦人パンプスです。価格は2万円」

 こうした光景を見ながら気づくのは、「買い物という行為の快楽」だ。一人ひとりの消費者が、どんな商品を好み、選択するかは、効率だけでは計れない。手間をかけて自分の足で探し、新しい驚きや喜びを見出す過程が欠かせないのだ。ショッピング支援アプリからは、そんな消費行動の特質が浮かび上がる。

AIがトレンドを分析し、記事執筆を支援

 2月に発表された「最新ファッションのトレンド分析をAIが支援」という研究成果は、このような人々の好みが総体としてどのように変化するかを、人工知能が人間よりもずっと素早く分析できることを示している。つまり人工知能のほうが容易に「流行」を見つけ出し、さらには発信もできるのだ。

拡大AIによる色やアイテムの検索イメージ(本間裕大准教授提供)
 東京大学生産技術研究所の本間裕大准教授は、ネットメディア「ファッションプレス」と共同で、最新トレンドを分析・評価するシステムを構築した。パリやロンドン、東京などで春夏と秋冬の年2回、有名ブランドが開いているコレクションを2014年からデータ化して解析している。

 このシステムを用いれば、「新しいファッションの動き」が即座に見つかる。ファッションプレスはすでに、システムを活用して多くの記事を公開している。「白ワンピースを主役に! 夏が待ち遠しくなる運命の一着探し」とか「レディース黒ジャケットコーデ20選 フォーマルorカジュアルな着こなし」とか……。人工知能がファッション誌のライターを手助けして、こんな話題が次々と執筆されている。

人工知能がファッションショーも

 3月には東京大の構内で、人工知能が生み出したファッションショーもあった。キャッチコピーは「この服をデザインしたのは誰?」。デザイナーのエマ理永さんと、東京大の合原一幸教授らの共同研究だ。

拡大東京大で開かれたファッションショー=2019年3月、筆者撮影
 発表された作品には、エマ理永さんがこれまで制作してきた多数のドレスを人工知能が学習し、人工知能自身が新たに生み出したものがあった。また、2次関数などの数式をグラフ化し、模様として取り込んだドレスなどもあった。

 人工知能が学習して出力した作品を見たとき、エマ理永さんはこう感じたと明かす。 ・・・ログインして読む
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筆者

伊藤隆太郎

伊藤隆太郎(いとう・りゅうたろう) 朝日新聞記者(科学医療部)

1964年、北九州市生まれ。1989年、朝日新聞社に入社。筑豊支局、西部社会部、AERA編集部などを経て、2016年から科学医療部。

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