石井徹(いしい・とおる) 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)
朝日新聞編集委員。東京都出身。1985年朝日新聞入社、盛岡支局員、社会部員、千葉総局次長、青森総局長などを務めた。97年の地球温暖化防止京都会議(COP3)以降、国内外の環境問題やエネルギー問題を中心に取材・執筆活動を続けている。共著に「地球異変」「地球よ 環境元年宣言」「エコウオーズ」など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「日本は将来のエネルギーについて決定すべき時」 アミン前IRENA事務局長
日本で開かれる主要20カ国・地域(G20)エネルギー・環境関係閣僚会議や首脳会議を前に、政府は地球温暖化対策に関する「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)」をまとめる。長期戦略は、パリ協定で2020年までに提出することを求められており、主要7カ国(G7)では、日本とイタリアだけが未提出だった。G20議長国として、メンツを守ることが主な目的なので、これまでの政策の焼き直しになりそうだ。
エネルギーについては、昨年のエネルギー基本計画にも盛り込まれた再生可能エネルギーの「主力電源化」がうたわれているものの、具体性はない。核になるべき炭素税の本格導入については、今回も玉虫色だ。それどころか、有識者懇談会になかった原発の活用への積極姿勢が鮮明にされ、懇談会の座長案にあった石炭火力全廃の方針は産業界の反対で撤回された。どこに進もうとしているのかは、相変わらず不鮮明なままだ。
世界に目を向ければ、再生エネはとっくに主力電源になっている。REN21(21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク)の「自然エネルギー世界白書2018」によれば、2017年に新規導入された再生エネ発電設備は178GW(1億7800万kW)で、全体の発電設備の増加分の70%を占めた。投資額の約75%は、中国、欧州、米国に向けられた。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は今年1月、報告書「新たな世界:エネルギー変容の地政学(A New World: The Geopolitics of Energy Transformation)」を発表した。技術の進歩とコストの低下によって急拡大する再生エネは、産業革命以来2世紀にわたって地政学上の勢力を決定づけてきた化石燃料に代わって、新たな世界の勢力分布や国同士の関係、紛争リスクを生みだしつつある。
報告書は、今年4月に8年間の任期を終えた前事務局長のアドナン・アミン氏が中心となってまとめられた。退任前に日本への提言を含めて聞いた。
――今回の報告書の目的は何か。
アミン ここ10年間に世界のエネルギーに起きた大きな変化を、理解するためだ。エネルギー全体で、最も伸びが著しかったのは再生エネだ。過去6年間、毎年、最も発電設備量を伸ばしたのは再生エネだ。コストも下がり、ほかのどのエネルギーと比べても競争力を持つようになった。
これまでのエネルギー資源は、一部の国々が保有していたので、それらの資源国は、エネルギーを戦略的、政策的に活用することができた。だが、再生エネでは、すべての国々がある程度は自分たちのエネルギーを国内でまかなえる。エネルギー自給や自立もある程度は可能だ。これは国家間の力関係にも大きな意味を持つ。
――それはどういうことか。
アミン 再生エネの導入拡大によって、電化やシステムの安定性が進む。化石燃料時代は、エネルギーの確保が力の源泉だった。だが、これからは再生エネへの投資や技術革新が力を生む時代になる。化石燃料の資源を持っているかどうかは、もはや問題ではない。
これまでの過去50年間に支配的だった国家間の力関係は、