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欧州、「緑」の政治勢力がある安心

欧州議会選挙では「緑」が自国第一主義に立ち向かう防波堤となった

尾関章 科学ジャーナリスト

 欧州連合(EU)は、分裂の危機をとりあえずは回避したと言えよう。欧州議会選挙の投票が5月下旬、加盟28カ国であり、右翼勢力を抱え込んだEU懐疑派の議席獲得数が約3割にとどまったからだ。

保守対社民は過去の構図

拡大ベルギーの首都ブリュッセルにあるEU本部(shutterstock.com/jorisvo)
 

 ここで注目したいのは、親EU派のなかで踏ん張ったのが、中道左右両派ではなかったことだ。西欧諸国で長く政権獲得を競いあってきた穏健保守と社会民主主義の両勢力は振るわなかったということだ。公式サイトが6月6日付で公表した仮集計によると、欧州議会全議席751のうち、中道右派「欧州人民党」は179、中道左派「社会民主進歩同盟」は153あたりに落ち着く模様で、どちらも30~40の議席減となりそうだ。これに対して勢力を拡大したのが、中道の中道とも言えるリベラル派「欧州自由民主同盟」と環境保護派「緑のグループ・欧州自由同盟」。仮集計の議席数で言えば、中道リベラル派は68から106へ、環境保護派は52から74へ、それぞれ大幅にふえることになる。

拡大「みんなの欧州 ナショナリズムに反対」と書かれた垂れ幕を持って歩く人たち=5月19日、ベルリン、野島淳撮影
 中道リベラル派の躍進には、さまざまな事情がある。一つには、フランスで前回2014年の欧州議会選挙時には旗揚げしていなかったマクロン大統領の与党「共和国前進」が、この陣営に参加することになったからだ。さらに英国では、EU離脱問題で保守、労働両党に対する幻滅が浸透して、両党支持層の票の一部が中道リベラル派「自由民主党」へ流れたことが考えられる。これは、欧州全体の保守対社民の構図が過去のものになりつつあることの表れにほかならない。

 それよりも目を引くのは、環境保護派の健闘だ。英独仏3カ国での得票率を公式サイトに載っている数値で見てみよう。これは、各国当局が発表したものだという。

「緑」、ドイツでは堂々の2位

 英国の環境保護派「緑の党」は12%(小数点以下は四捨五入、以下も)で、EU懐疑派の「EU離脱党」、中道リベラル派の「自由民主党」、中道左派の「労働党」に次いで4位だ。ここで特筆すべきは、英与党の中道右派「保守党」を追い抜いたことである。英国議会下院の選挙は小選挙区制なので、緑の党の下院議員はいま1人しかいないが、もし下院選挙が比例代表制に切り替われば連立のカギを握る勢力になるということだ。

拡大ドイツ「緑の党」の選挙運動ポスター(shutterstock.com)

 ドイツでは「緑の党」が21%で堂々の2位。中道右派の「キリスト教民主・社会同盟」には及ばなかったが、中道左派「社会民主党」には5ポイントほどの差をつけた。またフランスでは、「欧州エコロジー・緑の党」が13%。首位の右翼政党「国民連合」と2位の中道リベラル派が20%台前半でしのぎを削るなか、それを追う第三勢力の座を占めた。

「緑」が右翼台頭に対抗する

 「緑」の絶好調は、今回の選挙に限らない。たとえば、英国では「緑の党」が5月初めにあった地方自治体の選挙でも大躍進した。BBCの報道によると、議席数を194もふやして265に伸ばしている。絶対数では「保守」「労働」両党の合計約5600議席に遠く及ばないが、3.7倍の激増である。この選挙では「保守」「労働」両党が減らした約1400議席の6割強を「自由民主党」と「緑の党」が分けあうかたちになった。

 ドイツでは、欧州議会選挙終了後の世論調査(6月1日)で「緑の党」の支持率が27%となり、首位に立ったとの報道もある(朝日新聞2019年6月4日付朝刊)。

 さらに、ちょっと前のことになるが2016年のオーストリア大統領選では、右翼政党の候補を抑えて当選したのが「緑の党」の党首経験者だった。ここから浮かびあがるのは、欧州では環境保護派が右翼勢力台頭に対抗する防波堤になっている現実だ。

右翼対「緑」、対立軸になる

拡大欧州議会の本会議場=フランス・ストラスブール、国末憲人撮影
 右翼政党対環境保護派という構図は一見、奇妙にも見える。だが、右翼勢力の多くが移民の受け入れを嫌い、自国第一主義を標榜していること、対して、環境保護派の大勢は、地球の生態系存続に危機感を抱いており、脱温暖化政策などで国際協調を求めている。ともに経済のグローバル化に対しては批判的な傾向にあるが、国際社会への関与の仕方では主張に大きな違いがある。これは立派な対立軸ではないか。

 翻って日本政治はどうか。近々の選挙で緑の勢力が台頭しそうな気配はない。その理由は、日本ではエコロジーが政治思想として熟していないからだと私は思う。 ・・・ログインして読む
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筆者

尾関章

尾関章(おぜき・あきら) 科学ジャーナリスト

1977年、朝日新聞社に入り、ヨーロッパ総局員、科学医療部長、論説副主幹などを務めた。2013年に退職、16年3月まで2年間、北海道大学客員教授。関心領域は基礎科学とその周辺。著書に『科学をいまどう語るか――啓蒙から批評へ』(岩波現代全書)、『量子論の宿題は解けるか』(講談社ブルーバックス)、共著に『量子の新時代』(朝日新書)。1週1冊のブログ「本読みby chance」を開設中。

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