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宇宙のグーグル地図の生みの親 ガン博士に京都賞

独自アイデアの広域観測で宇宙史解明に革命をもたらした

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 プリンストン大学名誉教授のジェームズ・ガン博士が「大規模広域観測に基づく宇宙史解明への多大な貢献」により2019年の京都賞(基礎科学部門)の受賞者に選ばれた。京都賞は1984年に稲盛財団が創設した国際賞で、毎年、先端技術、基礎科学、思想・芸術の各部門に1賞が贈られる。各部門はさらに4分野に分けられ、基礎科学部門の場合、生物科学(進化・行動・生態・環境)、数理科学(純粋数学を含む)、地球科学・宇宙科学、生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)が順に受賞対象分野となる 。地球科学・宇宙科学の分野では前回の2015年、「太陽系外の惑星の発見による新たな宇宙像の展開への多大な貢献」に対してミシェル・マイヨール博士が受賞している。

 今回のガン博士の受賞対象となった主たる業績には、日米共同研究としてスタートしたスローンデジタルスカイサーベイが大きく関わっている。この機会に彼の偉大な業績を日本との関わりを中心に紹介したい。

2次元のアナログ天体地図を3次元デジタル化

 天文学の研究には、宇宙の天体分布地図が不可欠である。最近は、世界のどこであろうと、グーグルマップがあれば迷うことなく目的の場所を訪れ、旅行の目的を達することができる。天文学研究において宇宙の天体分布地図はこのグーグルマップに対応する役目を果たしていると説明すれば、その重要性を実感して頂けるだろう。

プリンストン大学名誉教授のジェームズ・ガン博士
 かつて使われたのは、1949年から58年にかけて米国パロマ天文台の望遠鏡によって撮影された936枚の写真乾板である。これらのガラス乾板を印画紙に焼き付けた写真はパロマチャートと呼ばれて世界中の天文研究機関に配布され、天文観測において必須の道案内地図であった。

 ただし、通常の観測では天体までの距離はわからず、パロマチャートは天球上の2次元の座標で天体の位置を示すだけである。つまり、パロマチャートは2次元アナログ地図である。これをデジタル地図に置き換えようと考えたのが、ガン博士だった。世の中で写真がアナログからデジタルに移行し始めた1980年代のことだ。

 それだけでなく、遠方の天体の光を細かい波長に分けて観測(=分光観測)すれば、ハッブル-ルメートルの法則によってそれらの距離が推定できることに着目し、ガン博士は、天体の分光観測を行うことで宇宙の3次元デジタル地図を作成しようという革命的な提案をしたのだ。

日米共同研究から世界25機関の国際プロジェクトへ

 この提案は、当初アメリカの7機関で検討されていたが、1991年にその当時プリンストン大学で共同研究をしていた池内了氏、福来正孝氏、私のそれぞれに日本の参加が打診された。それを受けて、岡村定矩氏をはじめとする複数名の参加を得て日本研究グループが発足した。

 この日米共同研究計画に対して、1992年2月にアルフレッド・スローン財団からの援助が決定し、「スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)」と命名されて2000年4月から本観測が始まった。その後約5年毎に研究の主目的が更新され、第一期から第四期へと発展しながら、ドイツ、韓国、中国、イギリスなど世界中の25研究機関が参加する本格的な国際共同研究として継続している。

米アパッチポイント天文台にあるSDSSの専用望遠鏡
 SDSSは、米国ニューメキシコ州のアパッチポイント天文台にある口径2.5メートルの専用望遠鏡を用いる。この望遠鏡は天空上で直径3度の円、言い換えれば約7平方度の面積に対応する広い領域を一度に撮影できる。

 観測方式は二つ。一つは通常の写真撮影に対応する撮像観測である。観測方法は特殊で、空の上の幅3度の帯のような細長い領域を5つの異なる波長( フィルター)で同時に撮影する。一つの帯を撮影し終えると、となりの帯の撮影に移る。これにより、まず約1億個の銀河と恒星、クエーサーの2次元地図が完成した。

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