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「ムーンショット型」研究支援という壮大な的外れ

再び失敗へと歩みだす内閣府の科学政策 為政者が「アクティブ運用」するな

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(西部報道センター)

 この業績でマーコビッツは38年後、ノーベル経済学賞を受ける。38年もかかったのは、初めからすんなりとは受け入れられなかったからだ。提出された博士論文をめぐり、シカゴ大の審査委員会は紛糾する。大御所のミルトン・フリードマン教授からは「これが経済論文なのか」と反対されたらしい。

 なにしろ彼の論文は、まるで弓矢と的みたいな不思議な図とともに、複雑な数式がずらりと並んだもの。指導教官だった重鎮ヤコブ・マルシャック教授の取りなしがなければ、学位は葬り去られたともいわれる。

最適のポートフォリオとは「市場全体へ投資すること」

 難産の末に生きのびたマーコビッツ理論。これが、後にやはりノーベル賞を受けるジェイムズ・トービンによって発展する。トービンは、最適な資産分散の組み合わせが、投資家の分析や調査などとは無関係に決定されることを証明した。「トービンの分離定理」と呼ばれる重要な発見だ。

 では一体、その最適の組み合わせ(ポートフォリオ)とは何だろう? この難問を解いたのが、これまたノーベル賞受賞者のウィリアム・シャープだ。彼の「資本資産評価モデル」は、頭文字をとってCAPM(キャップエム)と呼ばれる。この結論もまた驚くべきもの。個別の株を組み合わせる最適のポートフォリオとは、その株式市場の平均値そのものだと証明されたのだ。

拡大金融工学を開拓したハリー・マーコビッツ(左)とウィリアム・シャープ
 「なにも考えず、市場全体に投資するのがもっとも合理的だ」……このモダンポートフォリオ理論の到達点に、金融業界は猛反発する。そりゃそうだろう。業界にとっては死活問題だ。証券会社のファンドマネジャーは汗水たらして企業を調査し、成長する優れた事業を選び出したとして、投資を勧める。こうした手法は「アクティブ(能動的)運用」と呼ばれる。

 しかし現実は冷酷だ。苦労を重ねた「アクティブ運用」が、なにも考えずに東証株価指数やダウ平均に連動させる「パッシブ(受動的)運用」に、結局は勝てない。なにしろファンドマネジャーは高給取りだから、顧客が支払う手数料は多額になる。そんな無駄金を使うよりも、サルにダーツを投げさせて株を買うほうが収益は大きくなるわけだ。

「アクティブvs.パッシブ」の成績は明確

 こうした議論への反発は、いまも根強い。だが「アクティブ運用vs.パッシブ運用」の対決には、はっきりと勝敗表がある。

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筆者

伊藤隆太郎

伊藤隆太郎(いとう・りゅうたろう) 朝日新聞記者(西部報道センター)

1964年、北九州市生まれ。1989年、朝日新聞社に入社。筑豊支局、AERA編集部、科学医療部などを経て、2021年から西部報道センター。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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