多様化するAI時代のスパコン戦略(3)
2019年07月02日
スパコンランキングTop500で20位に後退した「京」コンピューターだが、別のスパコンランキングであるGraph500では9期連続(通算10期)で1位を獲得した。これだけの期間、トップの座についていることは歴史的な偉業である。関係者の努力を称賛したい。
スパコンランキングは2009年までTop500しかなかった。科学計算でよく使われる密行列計算の速さで競われる。解くべき方程式がぎっしり詰まっているような計算である。具体的にはLINPACKと呼ばれる数値ライブラリを使った演算性能で評価される。
しかし、LINPACKでの計算がいくら速くても実際の問題を解くのは遅いということはあり得る。さらには、LINPACKの計算だけが速くなるようにシステムを作れば、上位にランキングされることになる。そのため、一つの指標でスパコンの性能を評価するのは間違っているのではないか、という批判が常につきまとった。そして、2010年から始まったのがグラフ解析を指標とするGraph500である。
近年、インターネットが爆発的に普及し、ビッグデータの解析が社会的に重要になってきている。身近な例としては、ネット検索をしているとさりげなく現れる広告がある。普段の使い方からその人の嗜好を解析して興味のありそうな広告を紐付けるのである。膨大な情報が様々な形で解析され、いろいろなところで利用されている。その良し悪しは別の機会で議論するとして、ビッグデータの解析は年々盛んになってきている。
その解析の基本は、データの関連性を調べることである。そのため、各データを頂点(ノード)とし、ノード間を辺(エッジ)でつなぐ。これがグラフである。交通網やWebの通信網を想像してもらうとわかりやすいかもしれない。渋滞を抜ける道筋が瞬時にわかれば便利である。
こうした「一番早く着ける道筋」のような「最適な解」を探す課題は「最適化問題」と呼ばれる。ところが、最適化問題は計算負荷が非常に大きく、解くことが困難であることが知られている。
様々な解法が体系化されているが、解が求まる問題もあれば、厳密解は求まらず、近い解を求めていく場合もある。
Graph500は、このようなグラフ解析の性能を競うランキングである。計算負荷が大きいことはスパコンに向いていそうである。社会実装の期待も大きい。
計算技術のうえで重要なのは、
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