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日欧が米国に先んずる小惑星・彗星探査

「はやぶさ」のノウハウを頼りに、欧州は低コストで太陽系外起源の彗星を目指す

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 昨年夏に公募された欧州宇宙局(ESA)の小型科学ミッションに彗星が選ばれた。太陽系ミッションとしては2012年に選択された木星の衛星探査機以来の採択となる。

彗星探査の観測装置は、多くの国の研究所が共同で開発・製造する
(研究チームの計画図を編集部で整理)
 人工衛星や探査機を使った科学ミッションは世界最先端が前提だ。つまり、ライバルの米国航空宇宙局(NASA)に太刀打ちしうる中身が求められる。その際、予算規模の圧倒的なNASAを追いかけるだけでは追いつけない。だが、幸い宇宙は広大で、宇宙科学の対象もまた多岐にわたる。NASAだけではカバーしきれないのも事実だ。

 その隙間にチャンスがある。日本の技術が一定水準を超えた1980年代後半からは、彗星探査機すいせい(1985年)や磁気圏探査機あけぼの(1989年)、太陽観測衛星ようこう(1991年)など、どのミッションも国際評価が高い。私の住む小国スウェーデンすら、同じ原理で初衛星「ビーキング=viking」(1986年打ち上げ)が10年以上も世界最先端の成果を出し続けた。

3種類の観測手段

 ただし、いくら隙間で先陣を切っても、同じ対象にNASAが本気で挑めばより完璧なミッションで上書きされかねない。なんせ予算が1桁以上は上なのだ。だが、現実には、いったん出来た隙間は、その後も残りやすい。というのも、使われる工学技術やデータ解析技術が対象ごとに異なり、そのノウハウの量は膨大だからだ。

 それを理解するには、宇宙科学探査を観測手段で分類するのが早い。大きく3つに大別される。①ゼロ距離で調べる現場探査、②近中距離からのリモートセンシング、③望遠鏡による遠方探査だ。

 一つ目の現場探査には、飛行している地点を調べるプローブや、地表探査車(ローバー)などを使ったサンプル調査がある。プローブは宇宙時代の最初期での主流だった。月や金星・火星などの着陸ミッションは、冷戦時代の宇宙開発競争でも脚光を浴びた。比重が低くなった近年でも、金星を除く太陽系探査で欠かせない観測手段となっている。

 二つ目のリモートセンシングには、低高度衛星からの地上・大気探査はもちろんのこと、静止衛星からの探査も含まれる。近年の主流であり、太陽系探査でも現場探査以上に重要になりつつある。実用・軍事目的でも頻用されており、今やインフラの一部といってもよい。

 三つ目の望遠鏡探査は、X線から電波までの広い波長を含む。現場探査や近距離探査に比べて歴史が浅いが、ハッブル宇宙望遠鏡以降、天文学における重要度が急速に増した。日本では最初期の1970年代から現場探査とほぼ交互に続けられ、国際的評価は高い。

目には見えない膨大なノウハウ

 これら探査手段は、探査対象ごとにかなり偏っている。例えば地球本体の探査はリモートセンシングの独壇場で、宇宙空間は主に現場探査で行なわれる。太陽系の外(天文)は望遠鏡の独壇場で太陽も主に望遠鏡探査だ。太陽系の天体は、現場探査とリモートセンシングを併用するが、これも対象と手段の組み合わせが限定的だ。当然ながら、いったん得たノウハウは次の類似のミッションで、技術面でも科学面でもさらに洗練される。

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