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巨大加速器ILCとセルンの次期加速器の行方

中田達也・スイス連邦工科大学ローザンヌ校教授に聞く

高橋真理子 朝日新聞 科学コーディネーター

 岩手県が熱心に誘致活動を続けている巨大加速器ILC(International Linear Collider)は、日本に造られるかどうかはっきりしない「中ぶらりん」の状態が続いている。日本政府は「ILC計画に関心を持って国際的な意見交換を継続」し、日本学術会議は建設の是非を議論するプロセスのただなかにいる。加速器には、大きく分けて円形と直線型がある。ILCは直線型の計画だが、欧州合同原子核研究機関(CERN=セルン)にもCLIC(Compact Linear Collider)という直線型の将来計画がある。この計画のことは、これまで日本でほとんど語られてこなかった。欧州でこれはどう位置づけられているのか。「リニアコライダー国際推進委員会(LCB)」の議長を務める中田達也・スイス連邦工科大学ローザンヌ校教授にローザンヌでインタビューした。

拡大中田達也・スイス連邦工科大学ローザンヌ校教授=同校物理学教室のベランダで

セルンに掲げられていた直線加速器CLICの看板

 LCBは、世界の物理系学会の集まりである「国際純粋・応用物理学連合」のもとに作られた「国際将来加速器委員会(ICFA)」の中の組織だ。中田さんは1977年に東京教育大学を卒業し、都立大学の修士課程を経てドイツ・ハイデルベルグ大へ。そこでセルンの陽子衝突型円形加速装置(ISR)を使って博士号を取り、スイスの国立研究所の素粒子実験部門に就職した。ここで何人かの同僚とともに提案したBファクトリー(B中間子を大量に作って、その性質を精査する実験装置。これで粒子と反粒子の振る舞いのわずかな違い=CP対称性の破れと呼ばれる、物理学の基本課題の一つ=を追究する)は、スイスでは実現しなかったものの、日本(高エネルギー加速器研究機構)と米国(スタンフォード線形加速器センター)に造られ、小林・益川理論の正しさを確かめるのに貢献した。

 一方、中田さんはセルンの周囲約27キロのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)を使いB中間子を調べる「LHCb」という実験グループを仲間と作り、1995年に初代リーダーに就任。セルンの職員として2008年までリーダーを務め、その後はスイス連邦工科大学ローザンヌ校に移って実験を続けた。つまり、研究生活の大半は円形加速器を使ってきたわけで、直線型にかかわるようになったのはLCB議長になった最近の話だという。

拡大セルンの構内に掲げられたCLICの看板

――科学ジャーナリスト世界会議(7月1日-5日)に参加するためローザンヌに来たのですが、会議の参加者向けに企画されたセルン見学会に行ったら、構内にCLICの大きな看板があって驚きました。日本ではILCの話しか聞かないのですが、セルンはセルンでCLICを造る気満々なのでしょうか?

「いや、まだ何も方針は決まっていません。5月にグラナダに研究者が集まって欧州の将来計画をどうしようかと議論しました。そこでの多数派の意見は、長期的には欧州はLHCよりさらに大きな円形加速器をつくって陽子-陽子衝突実験を目指すべきだというものでした」

全長100キロ、山手線の4倍という巨大円形加速器計画FCC

――今年1月にセルンが概念設計図を発表したFCC(Future Circular Collider)ですね。全長100キロ、LHCは山手線とほぼ同じ大きさですが、その4倍という、ものすごく大きな円形加速器です。

「ええ、LHCからの延長としてその方向へ欧州がアンビション(大志)を持つのは当然だ、ということです。しかし、全長100キロのトンネルを掘るのは、膨大な予算が必要で、今までセルンができたことを越えてしまう。そこをどう解決するかは見えていません。一方でもう一つ、大かたの意見が一致したのは、次に造るのはヒッグス粒子を大量に作る電子—陽電子衝突型加速装置、ヒッグスファクトリーであるべきだという点です」

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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞 科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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