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アポロ着陸と月面第一歩はどう放送されたか

録画リプレイのなかった時代に、生中継映像が劣化に劣化を重ねた裏事情

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 アポロ着陸50周年ということで様々な記事がでていて、当時の記憶を語るものも少なくない。検索すると、テレビで生放送を見ていたという内容が結構あるし、映像を見たというのもある。実際、50周年ということで海外テレビ局が、着陸時のかなり鮮明な映像を出したりしている。例えばBBC日本語版の記事には、着陸時の映像が司令船と着陸船の両方から出ていているし、NASAも50周年でビデオのダウンロードサイトを開いている。そのうちの着陸直前の映像は、確かに見た記憶がある。

拡大1969年7月21日「朝日新聞」夕刊1面
 ところが前稿にも書いたように、着陸直後のNHKのニュース番組(スタジオ102という朝の1時間番組)では、着陸したのかどうか分からなかった。この記憶だけは間違っていないはずだ。8歳児の時の記憶というのは、とくに年に数回分のイベントの記憶はクリアーなものだ。小学校の同級生と話をすると、こちらが全然覚えていないことを、まるで映像イメージのように語られて面食らうことが多いのも、小学生の記憶の正確さを示している。一方で、月面第一歩のあとの正午のニュースでも映像があったのかどうかの記憶がない。これらの差はどこから来るのか?

 気になって調べたところ、どうも、月面歩行はあまりに画像が悪くて、たといテレビて見ていたとしても、印象に全く残らなかったらしいということと、当時のフィルム代があまりにも高すぎて、着陸直前の重要な数分の衛星中継を録画していなかったのではないか、という想像にたどり着く。

日本での放送映像は恐ろしく劣化したものだった

 司令船や着陸船から送られた映像は、SSTV規格と呼ばれる走査線320本の毎秒10フレームで、動画というよりも、高速連続写真だった。当時の家庭テレビの標準がNTSCと呼ばれる走査線525本の毎秒30フレームだったのに比べて非常に粗いものだ。これは、当時の通信技術でこれ以上のデータはリアルタイムでは送れなかったからだ。生中継を目指すために、低い規格を利用したのである。

 それでも、その規格のままに再現すればクリアーな映像となる。しかし、目的が生中継であったことから、NTSCのテレビ規格に変換する必要があった。現代のデジタル技術と異なり、当時の技術では、特にリアルタイムでの変換では、映像の劣化は避けられなかった。

 問題はそれだけではない。受信局はオーストラリアで、そこでNTSC規格に変換したものだから、変換した映像がオーストラリアから米国まで衛星通信される際にさらに劣化したのである。というのも、変換されたNTSC映像はアナログ映像であって、長距離通信でノイズが入りやすかったからだ。当時のTV生中継を再現したビデオがNASAから出ている

拡大ビデオ「Restored Apollo 11 Moonwalk」
https://www.youtube.com/watch?v=S9HdPi9Ikhk
拡大ビデオ「Apollo 11: For All Mankind」
https://www.youtube.com/watch?v=M9uHmRFmrx4

 日本への映像は、NASAからさらにもう1回、衛星通信を経ている。そこで3度目の劣化が起こった。朝日新聞の夕刊(私の郷里は夕刊が無かったので、翌日朝刊)を飾った写真の画像が ・・・ログインして読む
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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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