北海道のヒグマも個体数調整を考えるべきだ
札幌の市街地にまで出没、まずはもっと科学的調査と検討を
松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

図1 札幌市南区のヒグマ出没情報より。黒は目撃、赤は親子連れの目撃、オレンジは足跡発見。地下鉄真駒内駅付近を含む、森に隣接する市街地での出没が常態化している。
札幌市南区ヒグマ出没情報
札幌市の市街地でヒグマがしばしば出没している(図1)。
2015年に知床世界遺産地域のヒグマの人慣れ問題を紹介したが、もはや国立公園だけでなく、政令指定都市でさえもクマ問題が深刻化している。環境省、北海道、札幌市の行政とクマ学者の対応が後手に回っていると言わざるを得ない。
シカは知床でも屋久島でも個体数調整をしている
増えすぎた野生動物への対処法として、「個体数調整」(駆除により生息数をコントロールすること)がある。エゾシカを含むニホンジカは、1970年代は個体数が少なく、保護対象だったが、数が増えたために1998年に道東地域エゾシカ保護管理計画を策定して個体数調整を始めた。この時は、多くの批判が寄せられた。けれども、今では世界遺産地域の知床や屋久島でもシカの個体数調整を行っている。

畑に現れたヒグマ。作物のビートをくわえている=2017年7月、北海道森町、黒澤篤さん撮影
シカと異なり、クマの被害は人命にかかわり、市街地に出没するだけで子供の登下校やマラソン行事中止などの制約を受ける。札幌市は「事前に、各区のホームページなどからヒグマの出没情報を収集し、出没している場所には近づかないようにしてください」(ヒグマに遭わないために)と記しているが、そのような対応だけで住民は安心できるのだろうか。
クマは「問題個体」だけを駆除
現在の管理計画は、人に意図的に近づくまたは農地を荒らす「問題個体」を個体群存続に影響のない範囲で捕殺数に上限を求めて駆除するとしている。
そうではなく、エゾシカと同様に個体数調整に転換するという選択肢を考えるべきではないかというのが筆者の意見である。しかし、これが意外と簡単ではなく、多くの課題がある。
個体数の推定値の幅が大きすぎる
札幌市に出没するヒグマは「積丹・恵庭個体群」であるが、隣接する「天塩・増毛個体群」とともに、環境省により「絶滅の恐れのある地域個体群」に指定されている。近年の積丹・恵庭個体群の個体数推定値は
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