松田裕之(まつだ・ひろゆき) 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー
京都大学理学部および同大学院博士課程卒業(理学博士)、日本医科大学助手、水産庁中央水産研究所主任研究官、九州大学理学部助教授、東京大学海洋研究所助教授を経て 2003年より現職。GCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」リーダー(2007-2012)、日本生態学会元会長、日本海洋政策学会理事、個体群生態学会副会長。ヨコハマ海洋みらい都市研究会共同代表。
札幌の市街地にまで出没、まずはもっと科学的調査と検討を
増えすぎた野生動物への対処法として、「個体数調整」(駆除により生息数をコントロールすること)がある。エゾシカを含むニホンジカは、1970年代は個体数が少なく、保護対象だったが、数が増えたために1998年に道東地域エゾシカ保護管理計画を策定して個体数調整を始めた。この時は、多くの批判が寄せられた。けれども、今では世界遺産地域の知床や屋久島でもシカの個体数調整を行っている。
シカと異なり、クマの被害は人命にかかわり、市街地に出没するだけで子供の登下校やマラソン行事中止などの制約を受ける。札幌市は「事前に、各区のホームページなどからヒグマの出没情報を収集し、出没している場所には近づかないようにしてください」(ヒグマに遭わないために)と記しているが、そのような対応だけで住民は安心できるのだろうか。
現在の管理計画は、人に意図的に近づくまたは農地を荒らす「問題個体」を個体群存続に影響のない範囲で捕殺数に上限を求めて駆除するとしている。
そうではなく、エゾシカと同様に個体数調整に転換するという選択肢を考えるべきではないかというのが筆者の意見である。しかし、これが意外と簡単ではなく、多くの課題がある。
札幌市に出没するヒグマは「積丹・恵庭個体群」であるが、隣接する「天塩・増毛個体群」とともに、環境省により「絶滅の恐れのある地域個体群」に指定されている。近年の積丹・恵庭個体群の個体数推定値は
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