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サンマの国際漁業規制が意味するもの

日中など8カ国が総枠に合意したが、必要なのは国別の枠設定だ

片野歩 水産会社勤務

サンマが獲れなくなった

 秋の味覚サンマ。それが獲れないというニュースを耳にすることが増えて久しいのではなかろうか? 秋になると鮮魚で、それ以外の時期は解凍品が手ごろな価格で一年中流通していたサンマ。そのサンマを巡る環境が、資源量の減少や他国の参入に伴い大きく変わっている。今年の資源量は大凶漁であった2017年に次ぐ低水準で、昨年の3割減という予報が7月31日に発表された。しかし、現状では日本も含め各国はサンマが減っても容赦なく獲ろうとする。

サンマ©Aoki Nobuyuki

 この春、今まで8月(一部7月)からとしていたサンマ漁を今年の5月から通年操業できるようにするというニュースが流れた。しかし、母港を出て3日、もしくはそれ以上かかる公海の漁場に行ったが、漁は芳しくなかった。実は、昨年もサケマス流し網漁禁止の代替漁業として同時期に行われており、今年で4年目になる。今年の水揚げは5~7月で前年同期比の4割減の5千トンだった。獲れたサンマは、小さく脂がのっていないとも報道されていた。

 そして、7月中旬には「サンマに日中など8カ国、初の漁獲枠55万トンを設定」「乱獲に歯止め」「上限を緩めて決裂回避」といった2020年のサンマの漁獲規制に関する報道が流れた。

 これは、2019年7月16日~18日の3日間、東京で開かれた第5回北太平洋漁業委員会(NPFC)という国際会議の結果を報道したものだ。加盟国は、日本、台湾、中国、韓国、ロシア、バヌアツ、米国、カナダの8カ国・地域で、北部太平洋で漁獲されるサンマ、サバ類、イワシ、イカなどの資源管理措置が主要議題だった。

 今回の合意で「乱獲に歯止め」がかかるのかといえば、NOだろう。それはなぜなのかを解説し、今後どうすべきかを提言したい。

サンマ漁の実際

 さて、サンマはどのあたりにいるのだろうか。図は、サンマの分布を示している。日本のはるか沖合を回遊しており、このため国際漁業資源として分類されている。サンマの寿命は約2年と短い。

 分布は広範囲だが、実際に魚群がまとまって漁場が形成されるのは、ピンクと水色の箇所、つまり太平洋側の日本の近海と排他的経済水域(EEZ)の外側である。色の境目は、日本のEEZとの分かれ目だ。中国や台湾などの漁船は、日本のEEZ内では操業できないので、そのギリギリの海域で操業をしている。これは、マサバ、マイワシといった、日本で産卵している魚がEEZからはみ出して回遊する「はみ出し資源」についても同様となる。

 また、中国や台湾などの漁船の方が大型であるとしばしば指摘されるが、それには理由がある。ピンク色の漁場から自国に鮮魚で水揚げできる距離ではない。このため洋上で冷凍する形を取らざるを得ず、大型なのだ。そして凍結された魚は、洋上で運搬船に積み替えられて運ばれて行く。一方で青色の漁場で獲る日本のサンマ船は、鮮魚のまま日本の港に水揚げできる地理的な利点がある。

北欧の効果的な資源管理の例

 海外に目を向けてみる。資源が共有されているサバ、ニシン、マダラなど北欧での青物・底魚の主要魚種には、科学的根拠に基づき魚種ごとに漁獲枠(TAC)の総枠と国別配分(比率)が毎年設定され、さらに漁業者や漁船ごとに個別割当制度(IQ、ITQなど)が適用されている。日本では2018年12月に70年ぶりの漁業法改正があり、本格的に資源管理に取り組むことになったが、北欧のやり方には参考になる事例が多い。

 図はノルウェー、EU、アイスランドなどが調査船や漁船を出して、合同で毎年夏に行う資源調査結果を表したものである。赤色がサバで青色がニシン。サバもニシンも各国のEEZを越えて広く回遊・分布している。

 北欧では国際海洋探査委員会(ICES)が窓口になり、調査データを利用した科学的根拠に基づくアドバイスが行われ、その数量をベースに多くの漁獲枠が毎年決められていく。もともと、サバに関しては2007年以前には、アイスランドのEEZ内に回遊することはほとんどなかった。ところが、温暖化が原因と考えられる回遊パターンの変化により、それまでサバの資源を管理してきたノルウェー・EU・フェロー諸島(デンマーク自治領)の海域から離れて回遊するようになった。

 このため、関係国で国別TACの配分に関する議論が過熱した。サバの回遊の変化によって最も恩恵を受けているアイスランドでは、自国で漁獲可能とされる資源量の1割程度に漁獲枠を抑えている。自国に回遊してくるサバは多いので、やる気になれば枠を大幅に超えて獲れる。しかしながら、EUやノルウェーなども同じ群れを漁獲する。同じ群れを獲り合えば、中長期的には資源が減少して自国に跳ね返り、結局、投資した漁船や加工場が原料不足で立ち行かなくなることが分かっているのだ。

 一方で、同じ北欧でも、アジやアカウオ資源の中で国別TACが実際の漁獲量よりも多かったり、国ごとの合意がされていなかったりしているケースでは、資源が回復しているとはいえない。

今回は漁獲枠の国別配分を決めなかった

 今回のNPFC会議で決められたのは、漁獲量の上限である総枠である。総枠は公海とEEZに分けられているものの、国別TACは決められなかった。本来は、資源管理に国別TACが不可欠だ。さもないと、早い者勝ちになり、いわゆるオリンピック方式となる。各国は、将来の国益となる自国への配分比率を高めるために漁獲量を増やそうとして漁獲圧力が高まる。

 この委員会は2015年に第1回が開かれ、すでに5年が経過している。国別TACの交渉は、そもそも今回の日本の提案には入っていなかった。国別TACは、2017年に初めて日本が提案したが否決された。資源の減少が予測されていた中で、総枠は前年実績の35万トンより大幅に増やす56万トン(最終実績26万トン)を提案し、国別TACについては、自国漁獲枠は24万トンで前年実績11万トンの倍以上にし、漁獲量を伸ばしている中国は前年実績より少ない5万トンとした。会議に参加した8カ国・地域のうち日本案に賛成したのは台湾のみであった。

漁獲枠は大きすぎては意味がない

 そもそも漁獲枠とは、実際に漁獲できる量よりも抑えられているケースがほとんどだ。北欧、北米、オセアニアなどの漁業先進国では、ほとんどの主要魚種に対して科学的根拠に基づいた漁獲枠が設定されている。このため漁獲枠と漁獲量は、ほぼイコールで推移している。下記グラフのノルウェーのサバや、アラスカのスケトウダラなど日本でお馴染みの天然魚がその代表である。

ノルウェー青物漁業協同組合のデータを編集

 一方で、日本が設定したサンマの漁獲枠と漁獲量の推移を見てみると、漁獲量が大きく下回っていることが見て取れる。これは、漁獲枠が大きすぎで、規制が機能しづらいことを意味する。国別TACは、近年の漁獲実績を基に交渉されやすいので、大きな漁獲枠を主張しても、この枠との乖離が指摘されてしまうことであろう。

戦略的な国際交渉で国別TAC設定を

 漁獲枠の配分は、国益に絡みいったん決まると動かすのは難しい。このため、関係各国との交渉は容易ではない。また、配分は量ではなく、比率で決めることが不可欠だ。数量で決めていくと、枠の合計数量が実際の漁獲量より大きすぎて機能しないことになりやすい。

 サンマが漁獲されている海域では、マサバやマイワシも漁獲されている。サンマとは対照的に、これらの魚種は2011年の震災後に資源量が増加している。そこで、マイワシの国別TACの設定を提案することを提言したい。イワシ漁をまだ本格化させていない中国を始めとする他国に枠配分のための実績をつけさせることで、サンマへの漁獲圧力を下げさせる。その間にサンマの資源量を回復させながら、国別TACも設定していく。

 このままの大きな総枠とオリンピック方式では、サンマ資源が危機的になることは、関係各国も懸念している。まさに待ったなしの状況である。