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国内外の戦争の跡地を訪ねて感じたこと

科学技術研究者は戦跡を訪ね、歴史をゆっくり考える余裕を持ってほしい

永野博 科学技術振興機構研究主幹

 「戦争は人の心の中で生まれるものあるので、人の心の中に平和の砦を作らなければならない」。これはよく知られたユネスコ憲章の冒頭の句である。私は戦後の生まれだ。だから、戦争を実体験した人たちが持つ平和への強い願いを若いころは十分に共有できなかったように思う。しかし、戦争を考えさせる場所を世界各地に訪ねる経験を重ねることによって、自分が変わってきたと実感している。

 先日、北方四島ビザなし交流の訪問団の一員として同行した官僚出身の国会議員が「戦争でこの島を取り戻すのに賛成ですか、反対ですか」などと大声で参加者に聞いた件には心底驚いた。本人の資質はもちろん問題だが、日本の中で、戦争、平和について日常の中で議論する機会がないことにも一因があるのではないだろうか。この点に私は強い危機感を持つ。

 政治家はもちろんのこと、科学技術研究に携わる人々も、意識して戦争の実像を学ぶ機会を増やすように呼びかけたい。科学技術が戦争と表裏一体の関係で進歩してきたのは事実である。だからこそ、過去の戦争の記憶を呼び覚ます場所を機会があれば訪問し、歴史をゆっくり考える余裕を持ってほしいと思う。

見渡す限り並ぶ白い十字架

 私が初めて戦争を考えさせられる場所として深い印象を得たのはフランスのヴェルダンだ(1977年)。たまたまドライブで通りかかり、ここが世界史で習った記憶のある第一次世界大戦のフランスとドイツの激戦地、ヴェルダンかと思いつつ展望台に行くと、見渡す限り、気の遠くなるほど遠くまで白い十字架が並んでいた。これを見た瞬間、こんなことが起こってはいけないという強い精神的な圧迫を受けた。

拡大アウシュビッツのガス室の前

 同じころ、当時住んでいたミュンヘン近くのダッハウという町にあるナチスの強制収容所を見に行った。いろいろ見たはずだが、記憶にあるのは米軍により解放された収容所から、痩せこけた人々が出てくるところを撮影した動画だ。

 そのようなこともあり、アウシュビッツにも行ってみたいと思っていたが、その機会はなかなか来なかった。ついに2009年、ポーランドの古都、クラコフであった経済協力開発機構(OECD)の会議に参加するという偶然に恵まれた。アウシュビッツはクラコフの近郊にあり、会議終了後にさっそく出かけた。「労働は喜び」と書かれた門をくぐると、映画や報道で何度となく見た光景が広がっている。いま、付き合っている親切なドイツ人からは考えられない戦争の狂気をいやというほど考えさせられる場所だった。

拡大アウシュビッツの広大な敷地に復元された数棟の収容所棟
拡大収容所内部

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筆者

永野博

永野博(ながの・ひろし) 科学技術振興機構研究主幹

慶應義塾大学で工学部と法学部を卒業。科学技術庁に入り、ミュンヘン大学へ留学、その後、科学技術政策研究所長、科学技術振興機構理事、政策研究大学院大学教授。OECDグローバルサイエンスフォーラム議長を6年間、務めた。現在、日本工学アカデミー専務理事など。著書:『世界が競う次世代リーダーの養成』、『ドイツに学ぶ科学技術政策』

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