メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

ワクチンへのためらいは根が深い

はしかの流行が今世紀最悪となった米国で問題が浮上している

浅井文和 医学文筆家

ニューヨーク市では非常事態宣言

 米国ではしか(麻疹)の流行が止まらない。

 昨年秋からニューヨーク市などで流行が始まり、米疾病対策センター(CDC)によると今年に入ってから8月1日までの患者数は1172人にのぼる。このうち124人が入院し、64人が肺炎や脳炎などを合併したと報告されるなど、症状が重い人たちもかなり含まれている。決して軽い病気ではない。

 8月に入ってからも「カリフォルニア州サンディエゴ郡の生後11カ月の乳児がフィリピン旅行から帰った後、はしかで入院」など、はしかに関する報道が続いている。

 米国は2000年、国内に由来するはしかの感染がなくなった「排除状態」になったものの、海外からウイルスが持ち込まれる散発的な感染は起きていた。しかし、1000人を超える今年の流行は21世紀に入って最悪の事態だ。患者発生はニューヨーク州など東海岸からカリフォルニア州など西海岸まで30州に及ぶ。

 ニューヨーク市は4月、公衆衛生上の非常事態を宣言し、流行している地区の住民や通勤者にワクチン接種を義務づけた。

拡大米国のはしか患者数の推移
 はしかを予防するために世界中で使われているのがワクチンだ。米国ではMMRワクチン(はしか・おたふくかぜ・風疹の混合)が使われる。CDCによると、患者の多くはワクチンを受けていなかった。

 政府やCDC、ニューヨーク市などはさまざまな機会を通して「ワクチン接種を」と呼びかけている。外からウイルスが持ち込まれた場合でも、ワクチンの接種率が高ければ集団免疫効果によって他の人たちへの感染を防ぐことができる。

 米国では「排除状態」になって以降、感染を局地的に抑えてきていた。感染が広がった要因としてCDCが挙げているのは、宗教などさまざまな理由でワクチンを受けていない集団が米国内にあることだ。

日本でも未接種の宗教団体から集団感染

拡大はしかのワクチン接種を受ける男性=2018年5月、西川迅撮影
 日本もはしかを排除した国として2015年に世界保健機関(WHO)の認定を受けているが、海外からの持ち込みによる感染は起きている。今年1月には三重県内ではしかの集団感染が判明した。三重県の発表によると患者数は最初の患者からの2次感染、3次感染、4次感染を含めて49人に達した。昨年12月に開かれた宗教団体の研修会参加者から感染が広がったことがわかっている。この団体では宗教的な理由でワクチンを受けていない人たちが多かったという。

 「ワクチンへのためらい」が世界の公衆衛生の大きな課題になっている。

 WHOが発表した「2019年の国際保健の10の脅威」として「大気汚染と気候変動」「薬剤耐性菌」「インフルエンザの世界的大流行」などとともに「ワクチンへのためらい」が挙がっている。

 ただし、「ためらい」は「拒絶」ではない。ていねいに説明すれば理解が得られるという側面がある。

 三重県内での集団感染の発端になった宗教団体はWebサイトにおわびを掲載した。「医薬に依存しない健康」を重んじてワクチンを受けていない信徒がいたものの、今後は保健所の指導に従うとしている。

 ニューヨーク市のはしか集団感染でもワクチンを受けていない宗教コミュニティ内での感染が指摘されている。 ・・・ログインして読む
(残り:約1353文字/本文:約2666文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

浅井文和

浅井文和(あさい・ふみかず) 医学文筆家

元朝日新聞編集委員。1983年に朝日新聞入社。1990年から科学記者として医学、医療、バイオテクノロジー、医薬品・医療機器開発、科学技術政策などを担当。2017年1月退社。連載記事「患者を生きる」「がん新時代」「認知症とわたしたち」などに参画。

浅井文和の記事

もっと見る