米山正寛(よねやま・まさひろ) ナチュラリスト
自然史科学や農林水産技術などへ関心を寄せるナチュラリスト(修行中)。朝日新聞社で科学記者として取材と執筆に当たったほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会「グリーン・パワー」編集長などを務めて2022年春に退社。東北地方に生活の拠点を構えながら、自然との語らいを続けていく。自然豊かな各地へいざなってくれる鉄道のファンでもある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
恐竜像の刷新はちょうど半世紀前に発表されたデイノニクスから始まった
ちょっと古い映画だが、「ジュラシック・パーク」(1993年公開)に、小さいけれども凶暴な恐竜が、猛烈なスピードで駆けてきて人間に跳びかかるシーンがあった。ヴェロキラプトル(あるいはラプトル)と呼ばれていたこの恐竜がとても怖くて、身を固くして見ていた記憶がある。
すばやい動きのモデルになったとされる肉食の獣脚類恐竜がデイノニクスだ。「恐ろしい爪」を意味するその名が、論文として発表されたのが半世紀前の1969年だった。「今年は恐竜像が刷新される契機となった発表から50年の節目にあたる」と話すのは、国立科学博物館標本資料センターの真鍋真コレクションディレクター(近著に「恐竜博士のめまぐるしくも愉快な日常」や「恐竜の魅せ方」など)。東京・上野にある同館では現在「恐竜博2019」(主催・国立科学博物館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション)が開かれているが、真鍋さんが監修者として今年の開催に力を尽くした最大の理由はそこにあった。
1969年にデイノニクスの存在を発表したのは、米国イェール大学のジョン・H・オストロム博士(1928~2005)だ。1965年、モンタナ州にある白亜紀前期のクローバリー層から発掘された。ここからは少なくとも3体のデイノニクスと、それらがまさに獲物にしようと襲いかかっていたとみられる鳥脚類の植物食恐竜テノントサウルスが一緒に見つかった。デイノニクスの体長は最大3.4メートルほどと、恐竜としてはさほど大きくはない。だが、その名前の由来となった大きなかぎ爪を備えた足で、何度も跳び蹴りを加えようとしている姿が、博士の目には浮かんでいたのだろう。
この発表は、それまでの恐竜のイメージを大きく変えた。「恐竜温血説」の登場だ。真鍋さんは「それまでの恐竜は今の爬虫類のように変温動物で、のそのそと歩くスローモーな生き物と思われていた。だが、デイノニクスによって、恐竜は恒温動物で活発で賢く、鳥類や哺乳類みたいな動物だったんじゃないかと、恐竜学者が気付いた。まさに記念碑的な恐竜だ」と説明する。
「恐竜博2019」の会場へ入ってまもなくの場所に、デイノニクスの最大の特徴となっているかぎ爪を備えた左足の化石が展示されている。イェール大学ピーボディ自然史博物館が所蔵するデイノニクスのホロタイプ標本(その種を命名する基準となる標本)で、これまでは門外不出の品だったそうだ。
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