世界では懐疑論を越えて、大きなムーブメントが起きている
2019年08月24日
世界的には、今、若者を中心に大きな抗議運動が起きている。
以前にも本欄で紹介したように、2019年1月には、ドイツでは3万人、ベルギーでは1万2500人の中高生が、より厳しい温暖化対策を政府に要求するために登校を拒否し、街頭でデモを行った。
これは、Fridays for Future(未来のための金曜日)運動と呼ばれており、世界中の若者に行動を呼びかけた3月15日には、125カ国で160万人の子供や若者たちが参加した。
また、2019年4月、ロンドンでは、議会前広場といった街の中心の一部がExtinction Rebellion(絶滅への反逆)という名前の市民グループによって封鎖され、ロンドンだけで1100人以上が逮捕された。同様のアクションは、オーストラリア、ドイツ、トルコ、インド、デンマーク、カナダでも行われた。
しかし、日本での盛り上がりは小さい。世界的にFridays for Futureが行われた3月15日、日本での参加者はわずか100人程度であり、ドイツなどと比較すると2、3桁少なかった。この前の参議院選挙でも、温暖化は言うに及ばず、原発やエネルギー問題さえも大きな争点にはならなかった。
なぜ日本では、エネルギーや温暖化問題が大きな争点にならないのか。その理由として、懐疑論の影響の他に下記のようなものを思いつく。
第一に、日本では温暖化の被害が見えにくいことである。温暖化による被害は様々あるものの、大量の人や動物の命につながるのは、洪水、暴風雨、干ばつ、熱波、山火事などである(現時点での被害者は国連防災機関によると世界全体で年間約6千万人)。
日本では、これらの目に見えやすい被害は相対的に大きくなく、他国からの環境難民の到来というものを経験していない。確かに、西日本では集中豪雨による土砂災害などの被害は出ていて、多くの人命も失われている。しかし、東京で起こらない限り、日本全体の問題にはなりにくいのが日本の現実である。
第二に、他国に対する無関心である。例えば、さる3月にアフリカ南部を襲ったハリケーンによる死亡者は、1千人を超えた。インドも慢性的な干ばつに加え、2019年5月末から続く記録的な熱波で、ニューデリーで6月で過去最高の48度を記録し、200人が死亡している。しかし、日本ではメディアの報道も、国民の関心も、ほとんど無かった。全体が内向き志向になっているのだろうか。
第三に、日本政府による「日本は温暖化対策の優等生」という神話の存在である。確かに、日本は公害を経験し、1997年には京都議定書を生んだ国際会議(COP3)を京都で主催した。しかし、その後の温暖化対策は、他の主要国と比べて見劣りするものであり、かつその事実をほとんどの国民は知らない。
第四に、原発神話および2011年の福島第一原発事故がある。まず、「原発や化石燃料は安い」「再生可能エネルギーは高い」「これ以上の省エネは無理」という政府が作った神話がいまだに浸透していて、「原発が止まったから、温暖化対策は無理」だと思う人が少なくない。
これは、政府が「温暖化対策のために原発が必要」と言い続けていることも影響している。「脱原発も、温暖化対策も、経済にマイナス」という先入観念が強く、少なからぬ人が「温暖化対策を推進すべきだ、と言うと、原発推進と見られてしまう」という懸念すら持っている。
メディアの役割についても触れたい。米国では、いわゆる独立系のメディアでエネルギーや温暖化問題に特化したものが少なくない。
その一つである〝Inside Climate News〟というジャーナリストのグループは、丹念な取材に基づいて、大手石油会社Exxon(エクソン。現在はエクソン・モービル)が、人為的な気候変動のメカニズムやリスクを社内的には知っていたものの、対外的にはウソの情報を流していたことを暴いた。
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