小谷元子(こたに・もとこ) 東北大学教授、理化学研究所理事
東北大学大学院理学研究科数学専攻教授および材料科学高等研究所長、理化学研究所理事、内閣府総合科学技術イノベーション会議員、沖縄科学技術大学院大学理事、日本数学会元理事長・現理事。1983年東京大学理学研究科数学専攻卒、1990年理学博士。2005年猿橋賞受賞(離散幾何解析による結晶格子の研究)。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
アフリカ全土からの俊英に一線の数学者たちがハイレベルの講義
「アフリカ数学研究所」(AIMS)というものがある。2003年に、当時の英国ケンブリッジ大学物理学科長Neil Turok教授が仲間に声をかけて立ち上げたと聞いている。これは、数理科学を中核に据えた学術ネットワークで、アフリカ全土から優秀な学生・教員を集めた国際的数理科学教育・研究拠点である。大学院教育、教員研修、研究(数理の基礎研究と、諸分野・産業との連携研究)が3本柱となっている。大変ユニークな取り組みで、世界中の数学者が注目していると言っていい。この学術ネットワークのことを数学者ではない方にも知っていただきたく、筆を執った。
最初の拠点は2003年に南アフリカに置かれた。その後2011年にセネガル、2012年にガーナ、2013年にカメルーン、2014年にタンザニア、そして2016年にルワンダと、現在までに6拠点できている。2023年までに15拠点の設立を目指している。
AIMSの活動を様々なルートで耳にするようになったのは、数年前からだ。調べてみると、長年の友人であるケンブリッジ大学時枝正教授も立ち上げにかかわっていることが分かり、詳しく話を聞いた。二つのことで深い感銘を受けた。
第一に、アフリカでは25%未満しかSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の高等教育を受けていないというなか、「アフリカから科学技術の『創造』を生み出したい。そのためにはまずは数学の高等教育である」と考えたという「高い志」である。科学技術を自ら創造するエリート若手人材(ネクスト・アインシュタイン)の育成を目指し、アフリカの最も優秀な学生に対して国際的な教育を開始したのである。
基礎的・伝統的な数学だけでなく、データ科学・計算科学・AI、諸分野・産業との連携教育を高いレベルで行い、これまでに43カ国1737名の卒業生を出している。そのうちの30%が女性であり、また70%がアフリカにとどまりアフリカの社会・経済システムの向上、高等教育・研究機関での人材育成に携わっている。
もう一つは、これを「汎アフリカネットワーク」で行おうとしていることだ。