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深刻さを増す豚コレラ、拡大は防げるか?

殺処分の背景に「感染防止ワクチンが使えない」複雑な事情

唐木英明 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

 このような経緯から推測されるのは、おそらく2018年初めかそれ以前に、海外からの観光客が持参した豚肉入りの弁当に豚コレラウイルスが付着していたため、捨てられた食べ残しを夜に現れたイノシシが食べて感染し、他のイノシシに広がっていった。そしてイノシシから養豚場の豚に感染したのだ。

止まらない感染拡大と、取りうる対策

 その後、2カ月間は何も起こらず、感染は終わったと思われたのだが、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。11月16日に岐阜市、12月5日に美濃加茂市、12月15日に可児市、12月25日に関市、翌19年の1月29日に各務原市と、相次いで岐阜県内で感染が見つかり、1万頭以上の豚が処分された。そして2月6日以後は県境を越えて大養豚地帯である愛知県に広がった。7月24日には再び県境を越えて三重県、そして7月29日には福井県まで感染が拡大。8月23日までに岐阜、愛知、三重、福井の養豚場で感染が発生し、感染した豚が長野、滋賀、大阪に運搬されて、12万頭以上が処分された。また、岐阜、愛知、三重、福井、長野、富山、石川の7県で感染したイノシシが確認されている。

 豚コレラウイルスは豚とイノシシに感染するが、人には感染しない。だから、もし感染豚の肉を食べても人にリスクはない。感染した豚は食欲がなくなり、ぐったりして座ったままになる。続いて便秘や下痢、結膜炎など様々な症状が起こり、早ければ10日、遅い場合には30日くらいで死亡するのだが、今回は死亡までに長い時間がかかっている。初期の症状は他の病気と紛らわしく、見分けられないこともある。ウイルスは唾液や糞尿中に排泄され、これに接触すると感染するのだが、感染力は強い。

 豚コレラは治療法がないので、その対策は新たな感染を起こさないことしかない。そのための第1の方策は、少しでも早く感染した豚を発見して、その飼育農場に同居する豚を全て殺処分することで外へのウイルスの拡散を防ぐことだ。第2は、人間や野生動物などがウイルスを運ばないように消毒を徹底することである。国は「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」に基づいて、感染が見つかった農場のすべての豚の殺処分と焼埋却、発生農場から半径3km以内の豚の移動制限、防疫措置の実施、移動制限区域内の農場について感染の有無の検査、発生農場周辺の消毒、感染経路等の究明などの対策を実施した。

野生イノシシにワクチン投与

 しかしこれは感染源がその飼育施設に限られている場合だ。今回の感染源は農場の外で暮らす野生のイノシシと考えられる。そこで、イノシシから豚への感染を防ぐために、イノシシの侵入を防ぐ防護柵を養豚場周囲に設置すること、そしてイノシシにワクチンを投与してイノシシが感染しないようにする対策も実施された。

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筆者

唐木英明

唐木英明(からき・ひであき) 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを務めた。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。著書「不安の構造―リスクを管理する方法」「牛肉安全宣言―BSE問題は終わった」など。

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